№10
――甲田さんは喪服姿で現れた。
以前よりこちらのお話しはうかがっていたのですが、私には関係のない話だと思っていました。ですがちょっと気になることが……。はい、もちろん相談とかする場所ではないと聞いています。ただ、ほら、たくさん怖い話を集めてるんでしょ? 幽霊か枯れ尾花かくらいはわかるんじゃないかと……。
まずは今から20年ほど前の話をします。それは母の葬式の時でした。母は病死でした。着慣れない喪服、顔と名前が一致しない大勢の親戚、参列者が見せる憐みの目に私は母の死を受け入れるどころではありませんでした。不安な私は生前そうであったように安心させてくれる母の傍にいました。死んでも母だったので。
私と母が二人きりになったときうめき声のようなものが聞こえました。私は何を思ったのか、棺桶の顔の所に小窓があるじゃないですか、それを開いたんです。母の目が開いていました。そして言ったんです。
「次はお前だ」
って。私は泣きわめきながら父に縋りつきました。父も私が一体何を言っているのかわからなかったんでしょう。ガタガタ震える私を抱きしめて「転寝して怖い夢でも見たんだろう」と優しく言ってました。
あの言葉は「次死ぬのはお前だ」という意味なのか「お前も同じ病気になる」という意味だったのか、どちらにしても私には恐怖でした。まあ、見てのとおり私は健康に今まで生きてます。だからつい昨日まであれは本当に夢だったんだと思っていました。
今日、父の葬式でした。父はもともと体が弱い人でしたが、男手独りで私をここまで育ててくれました。先日定年退職したと思うと急に老けて体調を崩して……。私は喪主でした。葬儀には父の友人や会社の方々がたくさん来てくださり、私は忙しくしていたのですが、ふとした瞬間、私は父と二人きりになりました。他の部屋には他の誰かがいる気配はしますが、何故か全員示し合せたかのように二人きりになっていたのです。そしてあの唸り声を私は聞きました。あの日のことが脳裏をよぎらなかったわけではありません。ただ何かの間違えだという保障がほしかった。顔の小窓を開けた瞬間、私は後悔しました。父の目が見開き私を見ていたんです。父は言いました。
「今は、お前だったのか」
ねえ、私は何でしょう? 今の私は何なんでしょう? あなたには私がどう見えますか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます