№3

 ブラインドを閉めてくれませんか。

――開口一番、宇野さんは下を向いてそういった。

 ええ、そう、しっかりと、外が見えないように。……ありがとうございます。まぶしかったわけではないんです。ただ……これはこれからお話しする怪談に関することです。あなたが話を聞くだけということはわかっています。でももしアドバイスなどがあればと思って。

 ある日、私は普段使わない私鉄を使っていました。親戚の法事でどうしてもその線を使わないといけなくて。ああいう身内の集まりは気を使いますよね。私は仕事のため実家から離れていたので余計に周りが放っておかなくて。やれ、いい人はいないのかだの、やれ、近所のあの人が独身だの、やれ、さっさと仕事をやめて結婚しろだの。無駄に有給休暇を疲労で消費したこともあって私はぐったりと特急列車に乗っていました。眠たかったのですが、疲れすぎてて、眠る元気もなくて半分覚醒している状態でした。

 私は電車の音を聞いていました。レールを走る音。スピードを上げて風を切る音。トンネルに入って窓ががたんと音を立てたのは覚えていました。その後、急に「ああああああ」と悲鳴のような大きな音がして私は驚いて目を開きました。

 窓の外は真っ暗でした。そうそう、トンネルに入ったんだったと、もう一度寝ようとしたとき今度は私が悲鳴を上げました。窓に顔が映っていたのです。もちろん私ではありません。人の顔……ではないと思います。電車の大きな窓ガラスいっぱいに大きな口を開けて泣く顔が映っていたのです。「あああああ」とまた聞こえました。その声はガラスに映るその口と連動しているのです。

 泣き顔はそのあとすぐに消えました。次のトンネルに入ってもそれは出てきませんでした。夢でも見てたんだろうとその時は無理やり思い込もうとしました。

でもたまに出てくるんです。電車だけではありません。家の窓、会社の窓、水槽。たぶんガラスにいるんです。映ってるんじゃなくて。その中に。そしてあれは私が見るまで消えません。最初の時と同じように私を起こしてからもう一度泣いて消えます。何なんでしょうあれは。いつ出てくるのか判らないし。もう気味が悪くって……。

――その瞬間、宇野さんは悲鳴を上げて自分の顔を叩きだした。そして髪を振り乱しながら逃げるように部屋を出て行った。床には砕けた宇野さんの眼鏡が落ちていた。

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