都民ファースト!

桃山次郎

第1話 京都府民は都民に入りますか?

 都民ファース党が国会で第一党となってから、もう10年となる。従来の与党にも野党にも期待しなくなった国民は、都議会では既に過半数を握る都民ファース党が国政に躍り出た際、諸手を挙げて歓迎した。


 都民ファース党がまず取り組んだのは、一票の格差の是正だった。地方に重きが置かれた従来の選挙はおかしい、平等であるべきだという意見は、学会はもちろん都市圏の住民からも支持を集めあっさり、1票の格差が最悪でも1.1倍を実現した。


 これにより、都民ファース党はますます議席を増加させ、ついに、衆参両議会の三分の二超を握るに至った。満を持して都民ファース等は、憲法改正案を提出した。基本的人権の追加や高校までの学費無償化等画期的な施策が盛り込まれ、大多数の賛成を得て新憲法に改正された。しかし新憲法には、恐るべき陰謀が隠されていた。国民が全て都民に置き換えられていたのである。


 なぜ、マスコミは、この件を報道しなかったのか。まず大手マスコミの本社は、全て東京都にある。経営層も全員東京都在住であり、国民が都民となっても問題を感じなかったのである。また、常日頃から東京中心の報道をしており、(テレビでは毎日東京の新しいカフェの情報を全国ネットで放送していることは有名である。)東京以外眼中に無かったのである。さらに、東京都条例で青少年に悪影響を与える出版物は、18禁コーナーにしか置けないことが決まっており、売上減少に悩む週刊誌や新聞は、都民ファース党の批判など出来るはずが無かった。


 では、なぜインターネットでは、批判されなかったのか?新憲法案がツイッターの画像でアップされた際、気のきいた人物が国民が都民になっているのは誤植と考え、全て国民に修正したうえで、拡散してしまったのだ。マスコミは報道しないため、一次ソースがその画像しか無かったので、インターネットユーザーは、都民ではなく、国民が正しいと信じきっていたのである。たまに、都民になってるのではという指摘の声が上がっても、信頼できるソースがweb上に存在しなかったため、真相が分からずしまいになってしまった。


 新憲法が発効され、本当に、都民主権と記載されていることが明らかになると、ついに大騒ぎになった。しかし、ただの国民には、既に基本的人権が著しく制限されていたため、手遅れになってしまっていたのだ。


 ところが、新憲法にはひとつだけ、漏れがあった。東京都をえこひいきしているという批判を受けないよう、都民の定義は、客観的な基準として、都道府県名に都を含む地に在住する人民と定義されていたのだが、都民ファース党の発想から京都府民の存在がもれていたのである。京都府民は東京都民に対抗心を燃やしているが、東京都民は京都は修学旅行で行く程度の存在にしか考えていないので、この点を責めることは出来ない。


 税金をさして納めていないにも関わらず、図々しくも(権利と義務がセットなのは、当然の「常識」である)京都府民から、基本的人権を奪うため、都民ファースト党は驚くべき一手に出た。京都府を京豆腐に県名を変更するという法律を国会に提出したのである。しかも、京都府から都を抜くためだけという指摘を逃れるため、香川県をうどん県へ、青森県をアップル県へ変更するという三本建てであった。これにより、京都府民(豆腐業者を除く)以外全ての国民の圧倒的支持を集め、(世論調査では投票理由の第一位は「面白いから」、第二位は「なんとなく」であった)京都府から無事「都」の文字は消滅したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

都民ファースト! 桃山次郎 @momojiro5200

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ