2つの世界(仮)

@taruto777

001

「あの!俺さ・・・ひなたのことが・・・す・・・す。」

俺は今まさに一世一代の告白をしようとしている。花火大会の夜、友達なしの二人で並んで座っている河川敷。花火もあって周りにはたくさんの観客がいるがみんな花火に夢中で俺達に気を留める人は誰一人としていない。最高のシュチエーションを準備してここまで至った。あとは、好きだ。というだけ。それだけなんだけど・・・。ひなたは少し頬を赤らめて下を向いている。

これはいけるのか?なんとなく成功しそうな気はしているんだけど、やっぱりだめかもしれないっていう不安が俺に最後の言葉を濁らせる。

「優太くん・・・」

ひなたは俺を真っ直ぐに見て、俺からの最後の言葉を待っているかのようだ。よし、言うぞ・・・言うぞ。バクバクと心臓が高鳴って俺は決心する。

ドドーーン。

ひときわ大きい花火が打ちあがり、その光でひなたがより綺麗に見える。

「好き・・・だ。」

遂に言った。・・・がその言葉と同時に周りから大きな歓声が沸く。その歓声に俺の声はかき消されてしまったような気がする。

「優太くん、あれ!アレを見て。綺麗・・・すっごく綺麗だね。」

歓声に驚いたひなたは立ち上がり空を指差す。俺も立ち上がってひなたの指差すほうを見てみると、ものすごい数の流星群が流れている。

「あ・・・そういえば、花火の当日ぐらいに流星群がくるかもって話・・・あったね。」

「うん、すっごく綺麗。こんなにすごいのを優太くんと一緒に見れるなんて・・・素敵ね。」

良いムードだ。今度こそちゃんと聞こえるように伝えるんだ。そう思った矢先、閃光が辺りを包む。目の前が真っ白になり、反射的に目を瞑る。

「なん・・・なん、だ?」

「優・・・太くん」

俺は恐る恐る目を開けると光は消えていてぼんやりと花火会場が見えてくる。

「あー、なんだったんだ!?まだ、少し目がおかしいな。・・・ひなた?大丈夫か?」

返事はない。やっと目が慣れてきたので周りを見渡してみるが、ひなたの姿は見当たらない。周りの人たちもざわざわとしている。花火の演出なのか!?レーザーを間違ってこっちに照射しちゃったみたいなミスなのか?それにしては随分と眩しかったな・・・。

「おい、にいちゃん。彼女さんは大丈夫なのか?すっとぼけた顔してないで見てやれよ。」

近くにいたおじさんが声を掛けて下を指差す。見てみるとひなたが座り込んでいた。

俺は慌てて介抱する。・・・とりあえず、怪我は無いようだけど・・・気絶してるのか?体育座りをしてうつ伏せるように眠っている。

「ちゃんと家まで送ってやるんだぞ。途中でイタズラするんじゃないぞ!がはは。」

「は、はぁ。」

おじさんはニヤニヤしながら俺たちから離れっていった。

イタズラってなんだよ。とにかく、このままにはしておけないし、おぶって安全なところまで運ぶか。周りも数人不穏な空気を感じているのか移動する人も出てきて、このままここにいたら移動する人とかにぶつかったりとか危ないからな。俺はひなたを背中におぶって立ち上がる。・・・結構重いな。ひなたが特別重たいのではなく、気絶した人を背負うというのはこんなにも大変なこととは思わなかった。会場の放送ではさっきの閃光には一切触れることなく花火のプログラムを進行している。俺ははぁはぁと息を切らしながら歩いて河川敷を後にする。もっと会場が混乱するかと思っていたんだけど、意外にもすんなりと会場を抜けて道路へとでることができた。逃げるように移動したのは本当に数人だったらしい。ほんと、なんだったんだろう・・・。そんなことは別にいいとして、まさか告白しようとした日にこんなことが起こるなんて・・・ツイてないな。こんなことなら躊躇しないで言ってしまえばよかった。考えてみれはずっとそうだ。ひなたとは小学生の頃からの知り合いで中学のときに同じ部活でより仲良くなって、告白のチャンスなんていくらでもあったんだ。それをずっとずっと言えないでいたんだ。いざ、言ってみたらハプニングに見舞われるし・・・。

「ひなた・・・俺は、ずっとお前のことが、好きだったんだ。」

はは、気絶してる本人になら簡単に言えるなんて、本当に情けないな、俺は。

俺は近くの公園へと入り、一旦ひなたを降ろすことにした。考えてみればここからひなたの家までおぶって歩くにはさすがに体力的にキツい。ここは迎えを呼ぶしかないだろう。夜の公園なんてちょっと怪しい感じがあるかもしれないがここならコンビニの明かりも当たって物騒な感じもしないし、そこらのチンピラに絡まれることもないだろう。とりあえずひなたをベンチに座らせて、携帯の電話帳を調べる。確か・・・ひなたの家の電話番号が入っていたよな。

「あった、あー、ひなたの家に電話するのも久しぶりだな。」

トゥルルル・・・・・・。

「あ!もしもし、あの、相沢・・・優太です。」

(あらー、お久しぶりね。優太君。どうしたの?急に、電話なんて・・・)

「あ、お久しぶりです。おばさん。あの、今日、ひなたと花火を見にきてたんですけど、ひなた気絶しちゃって・・・」

(え!?気絶???なにかあったの!?)

「あ、いえ、たぶんニュースとかにもなると思うんですけど、花火の途中で流星群が流れてきてたんですよ。それでそのあとよくわからないんですけど、光がこう・・・ばーっと広がって・・・」

(え?流星群?なに?よくわからないんだけど。)

「とにかく、辺り一面光に包まれて・・・たぶんその光に当てられてびっくりして気絶しちゃったみたいなんです。」

(あら、そう。・・・まぁ、怪我とかしたわけじゃなくって良かったわ。それで今、あなたたちはどこにいるの?)

「あ、えっと、×××のコンビニの前にある公園にいます。それで、できればひなたを迎えにきてほしいんですけど。」

(あー、はいはい。わかったわ。すぐにいくからひなたのこと見ててあげてね。)

「はい、わかりました・・・」

ピッ・・・。あー、緊張した。なんか説明もちゃんとできてなかったな。考えてみればこんなことを急に連絡したら俺がなにかやったのかって思われても仕方ない状況だよな。それにしても電話に出たのがおじさんじゃなくて本当によかった。

俺は隣に座らせているひなたを見てみる。・・・可愛いなぁ。小学生の頃に出会ってからずっと可愛い。高校生になってさらに可愛くなった。きっと彼氏がいないのはおじさんの影響がかなりあるんだろうな。あのおじさんはひなたのこと超溺愛してるからなぁ・・・。そうでなかったら、こんな芸能人みたいに可愛い女の子が彼氏の一人もできないなんておかしいからな。俺も高校生になってひなたに他に好きな人、彼氏ができちゃうんじゃないかって焦りみたいな感情も湧き出ていて、告白を決意したくらいだ。そうでなかったらきっと、このまま、幼馴染を続けていたのかもしれない。まあ、噂に聞くと、もうすでに何十人もフラれている男子はいるらしいし、どうせフラれてもその中の一人になるだけだ。なんてことない。・・・って思っていたのにいざ告白するとなったらこの有様か。はぁ。

「ひなた・・・。」

目を覚まさないひなたが倒れないように横に座ってぼーっと迎えがくるのを待つ。なんだったらこのまま時が止まってくれたら、なんて考えたりもする。当然ながらそんなことはなくちゃんとひなたを迎えにきたであろう車が公園の入り口に止まった。ひなたを迎えにきたのはおじさんとおばさんの二人でおじさんが車を降りてきて、俺をじっと見るだけでなにも言わず、軽く会釈だけをしてひなたを連れて帰ってしまった。お礼の言葉もないのだが・・・ま、文句を言われないだけマシだと思っておこう。夢のような時間はあっという間に終わって、俺は誰もいない公園のベンチでただうなだれて、自分の情けなさを後悔する。なんでバシっと言えなかったんだ。なんだったらここで起こして気持ちを伝えてから解散でもよかったんじゃないか!?そんなことを堂々巡りのように考える。・・・はあぁ、こんなところで一人反省会をするのもバカバカしいな。俺はしかたなく歩いて自宅へと帰った。


「あーあ・・・なんか色々ツイてない日だったな。」

俺はそのままの格好でベットにバタっと倒れこむ。

告白するための準備を念入りにしたのに結局うまくいかなかったし、・・・ていうかひなたに聞こえていたのかも怪しいレベルだったな。いや、はっきり聞こえていて、今回は最悪断られたわけではないから、マシなのかもしれないが・・・。

「あー、だめだだめだ。今日はもう寝ちまおう。明日は学校は休みだし、早く起きてひなたにメールでもしてみるか。」

俺はいつもよりもだいぶ早いが寝ることにした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「あれ?なんだっけ?えっと・・・意識が朦朧としてる?」

目を開けると、そこはまるでみたことのない世界だった。見たことのない丘、見たことのない空、見たことのない景色。俺は草原の上に寝転んでいて・・・快晴な空には、なんか見たことのない鳥とか飛んでる!?

「・・・なんだっけ?あれ?色々とわからないぞ?」

今までなにをしていたのか、どうしてここで寝ているのか、まったく思い出せない。いや、思い出せないというよりは考えがまとまらない。

「御霊さま?」

俺は不意に後ろから声を掛けられて、驚いて飛び跳ねて振り向く。そこに立っていたのは可愛らしい女の子だった。

「え?えっと・・・みたま・・・さま?」

「はい。私の御霊さま。ずっとずっとお待ちしてました。」

そう言う女性は嬉しそうに俺に近づいてくる。

「ちょっと!ちょっと待って・・・よくわからないんだ。」

俺は慌てて女の子を制止する。いきなりなにかされても怖いし、本当にわけがわからなくて。近づこうとする女性の格好もおよそ普通とは思えない。ローブっていうのか?ハロウィンの仮装でよくみる魔法使いみたいな服を着て・・・怪しすぎる。

「ちょっと、近づかないで!・・・えっと・・・御霊ってなに?・・・ていうか、あなたは誰ですか?」

「あ・・・そうですよね。ごめんなさい。私はファムと言います。御霊さまのお名前も教えて頂いてもいいですか?」

ファム!?外人か?それともニックネーム??怪しい・・・けど、終始笑顔の女の子を見る限りだと、悪人っていうわけではなさそうだけど。・・・どうする?名乗るにしても、フルネームはやめておこうか・・・。

「俺は・・・優太・・・です。」

「そうですかぁ、御霊さまのお名前は・・・。」

教えても呼ばないんだ・・・。なんの為に聞いたんだろう。ていうか、俺・・・自分の名前はわかるんだな。なんだろうこの不思議な感じは。基本的なことは覚えている。名前、性別。だけど、自分以外のことはわからない。今まで何をしていたのか、どこから来たのかという過去のこともわからない。これは記憶喪失っていうやつなんだろうか・・・。

「で、ファム、さん・・・ここってどこだっけ?こんなことを言ったら変かもしれないけど、頭の中が混乱して俺自身なにをやっていたのかどこからきたのかがわからないんだ。」

「ふふふ、そうですよね。御霊さまは皆さんそうだと聞いてます。安心してください。ここのエリアはまだ安全です。御霊さまが不安に思うことはなんにもありませんよ。」

にっこりと微笑むファム、さん。この子は俺の質問にまったく答える気はないのだろうか?聞きたいことへの返答にはなってない・・・よな?この子からは敵意みたいなものは感じないから俺になにかをするつもりはなさそうだが。

「とはいえ、侵攻軍が珍しくこの街に向かって来ているとの連絡もありますので、一緒に私達の街までいきましょう。歩きながらちゃんと御霊さまに説明しますので。」

「あ、あぁ。そう・・・だね。」

侵攻軍?なんだか物騒なワードがでたな。本当になにがどうなってるんだ。とりあえず俺はこの目の前のハロウィン風の格好をしたファムという女の子に着いていくことにした。

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