天狗という種族

「なんでお前がいるんだよ。三毛のストーキングでもしたのか?」


 白猫は顔をしかめた。旭京は、かつて只野白猫を殴り倒して血だらけにするという暴力沙汰をふるったため、彼の天敵であった。


「そんなことはしないし、君を痛い目にあわせにきたわけでもないよ」


 白猫は三毛の後ろ、その陰に隠れるように立った。


「だから、そんなに警戒しなくてもいい」


「してねーよ」


 口だけは負けないつもりの白猫はそう言い張るが、実のところは旭のいうとおり。後輩をいつでも盾にするつもりだった。

 三毛は白猫の意図をわかっているものの、いつものことなので咎めず、先ほどからの旭との話題を再開した。


「それより、『ここから出てけ』ってどういうことだ?」


「言葉通りさ。今の大通駅はきな臭いんだ」


 三毛の怪訝なものをみる目が強まる。旭はガラス玉のように感情のこもらない目で応えた。


「……“職務”に差し障りがあるから言えないことかよ?」


 白猫の言葉に肩を竦めて、旭は、

「さあね」と返した。

 旭京は大天狗の一人であるとともに、北海道の西半分の人外たちを取り締まる鴉天狗たちの統括役でもある。人外とは言葉そのまま、妖怪、怪物、モンスター、幽霊、妖精……その他。多くの人間ではないが知性を持つ意志たちの総称で、それぞれの種族としての自戒を持った組織があり、これらの監督を“天狗”一族が担っている。この階層構造は、天狗が世俗権力と結びついてから始まり、150年ほど経とうとしていた。


「言いたい事を言いまくるお前がそんな目をしてやることかよ」


 白猫の苦言に眉をひそませる旭に、三毛はあやうい気配を感じとって両手を挙げた。


「降参する。出ればいいんだろ、出れば、な」


「ああ。早く出たほうがいい」


「ヤーシャがいいなら、そうするよ。札駅まで歩くか」


 三毛は白猫とともにもと来た道を戻ろうと振り返った。旭も踵を返し、大通駅のほうへと歩き出そうとして。


「きゃあああああ!!」


「う、うわああああ! ば、化け物だあ!!」


 互いに互いの方向から、悲鳴を耳にした。

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