Re: Assemble
柊木まもる
第1章 であい
A.きっかけ
世の中には、魔法少女育成ゲームというものが数多く存在する。
しかし、彼の様な方法で魔法少女育成をしているものはそうそういないだろう。
「よし、終わったぞ。」
「ありがとう!」
彼の名は東田邦夫。高校1年生である。
「今回は何をしてくれたの?」
そう聞くのは邦夫が育てている魔法少女、花村咲代である。
「新しい魔法を追加したよ。電気系魔法の攻撃を防ぐ防御魔法だ!」
「最近多いんだよね、電気系魔法。」
「まあね。見た目カッコイイからみんなつけたがるんだよ。僕はあんまり好きじゃないな。魔法って感じがしないし。」
「ほんと、邦夫くんって防御型魔法が好きよね。」
「だって、魔法少女って正義の味方みたいなところあるじゃん。」
「正義の味方・・・か。」
咲代はそうポツリとつぶやきながら空を仰ぐ。
「じゃ、僕は明日学校だからこれで帰るね。」
「うん、ありがとう!また明日!」
邦夫は移動魔法陣ポートスクウェアの中央に立ち、帰って行った。
「さーてと、ちょっと使ってみるかな。」
咲代はステッキを持ち、邦夫に教えてもらった通りに魔法発動をしてみた。
「神よ、そして全能なる白銀の書の主よ、この私に力を与えたまえ。」
詠唱し、ステッキを上に掲げる。
「エレクトリック・プロテクション!」
すると咲代の目の前に、銀色の五角形の魔法陣が出現した。魔法の発動である。
「よし、できた!」
ずっとほしかった魔法を手に入れた咲代は、満面の笑みを浮かべながらそう言ったのだった。
咲代と邦夫の出会いは、今から半年前の話である。
邦夫の父は外資系の商社に勤める商社マンで、海外を飛び回っていた。邦夫が高校に入学する1か月前のこと、父親が異動となりイギリスのロンドンに赴任することとなった。それと同時に昇進し、さらに多忙となることから単身での赴任は厳しいということになり、母親も一緒にロンドンに暮らすこととなった。ただ、邦夫が進学する高校もすでに決まっており今更ロンドンの高校に留学するという選択をするのも厳しいことから、邦夫は東京で一人暮らしをすることとなったのだ。邦夫の父の年収はかなり高い上に、母が大量に貯金をしていたこともあり、特にアルバイトなどもせずに苦労なく一人暮らしができるだろうと両親は考え、邦夫もそれに同意したため、高校入学と共に邦夫の一人暮らしが始まることとなった。
母がロンドンに行ってから3日後、そして高校入学2週間前のある日、邦夫の家にある男がやってきた。
「どちら様ですか?」
「私、こういうものなのですが・・・。」
そういって玄関先で渡された名刺には、日本で最大手のゲームソフト会社トライアングルエニックスと書かれていた。
「トライアングルエニックスの方が、僕に何の用ですか?」
「今ですね、新しいゲームソフト・・・といいますか、なんといいましょうか、とにかくそんなものの開発を行っておりまして、その無料体験にぜひご参加いただければと思いまして・・・。」
詳しく話を聞きたいと考えた邦夫は、その男を家に通した。
男はトライアングルエニックスのソーシャルゲーム開発課課長の柳田浩史と名乗った。
「具体的にはどういう内容のゲームなのですか?」
「そうですね、説明をするのはなかなか難しいのですが・・・」
そういって柳田が説明してくれた内容を簡単にまとめれば、自分が実際に異世界にいって、魔法少女を育てるという内容のものだった。
「実際に行って育てるとは・・・なにかトレーナーの様な事をするのですか?」
「書き換えをするだけです。書き込み、ともいえますかね。」
「何かデバイスを使ってそういうことをするってことですか?」
「はい、各魔法少女には魔法の情報を書き込むための“書”というものを持っています。その“書”に魔法の使い方だとか効果だとか、そういったものをあなたが書き込んでいくのです。」
「はあ・・・。」
「その“書”は、各魔法少女が持っているステッキにリンクしていて、設定された手順を行うことでその魔法が発動するというシステムですね。」
「はあ・・・。」
ただただ話を聞いているだけではさっぱり想像がつかない。
「自分の身に何かあるというわけではないのですね。」
「そうですね・・・そのためにも、ご自身の魔法少女と仲良くなって、必要な魔法を与えてください。」
「え・・・死ぬ可能性もあるってことですか!?」
「それはわかりません・・・というか、答えようがないというか・・・あ、大丈夫です、保険はありますから!」
「そういう問題じゃないんですけどね・・・」
なるほど、自分がきちんと育成しないといけないってわけか―――邦夫はそう思った。
でも、とても面白そうなゲームだな、と思った。邦夫は小さいころから魔法少女ものが好きだった。好きな魔法少女のキャラの抱き枕を買ってもらったり、魔法少女の女の子に憧れて、自分で魔法少女になり切ったこともあった。魔法少女が好きであるという気持ちは、今も変わらない。自分で、好きな形の魔法少女を育成できるなんて、夢のような話である。
「わかりました、無料っていうことであれば」
「ありがとうございます。では、マスター登録をここからお願いします。」
そう言われて、邦夫はタブレット端末に自分の名前や生年月日、住所といった個人情報などを入力した。
「ご記入ありがとうございます。では最後に、自分が育てたいと思う少女を選んでください。」
そう言われた邦夫は、およそ150人の少女が載ったカタログの様なものを示された。
「こんなにいるんですか・・・!?」
「ええ、それにあなたがこの無料体験登録者第1号ですので、今回ご用意したすべての少女をご覧になれるんですよ。」
「うわー、すごい!」
そこには、彼女たちの名前と基本的な性格、容姿が描かれていた。
「では、この子でお願いします。」
30分ほど悩んで選んだのが花村咲代だった。
性格は温厚で素直で、それでいて優しくて、だけど自分がしっかりしているタイプと書かれていた。白銀の書の主で、髪色は淡い水色、背中には白い羽が生えてる天使のような少女だった。
「わかりました。では、今情報登録を行いますね。」
30分後、邦夫は咲代のマスターとなったのだった。
やり方としては、自分が魔法少女のいる世界に行き、少女自身と相談をしながら必要な魔法を決め、それを“書”(邦夫の場合は白銀の書)にその情報を邦夫が書き込む、というものだった。
移動の方法は簡単で、手をまっすぐ自分の正面に伸ばし、「ムーブマジック」と言えば移動魔法陣ポートスクウェアが現れ、向こうの世界への入り口が開かれるのだ。そして、咲代のすぐ近くに行けるというわけだ。
初めて咲代と会ったのは、柳田が帰ったすぐ後だった。
咲代はその時、天を仰ぎながら何か祈りをささげていた。
「えっと・・・花村咲代さんですか?」
恐る恐る邦夫が声をかけると、その少女は振り向いて、「はい、私ですけど・・・」と答える。
「えっと、僕があなたのマスターの東田邦夫ですが・・・」
「あなたが私のマスターですか!」
彼女はそういって、ほっとした表情を浮かべながら邦夫に抱き着いてきたのだった。
「よかった~あなたがマスターになってくれて、私すごくうれしい・・・」
涙ぐみながら、彼女はそう言ったのだった。
「えっと・・・どういうことですか?」
「ううん、何でもない。大丈夫。とにかく、私はあなたがマスターになってくれたことがとっても嬉しいの!」
そういって満面の笑みで邦夫を見つめた。
「これから、私のことよろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げる咲代。照れながら邦夫もそれにこたえる。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「邦夫さんっておいくつなんですか?」
「今年から高校1年になるので、15歳です」
「へぇー、私とあんまり歳変わんないんだ。」
「そうなんですか?」
「うん、私今16歳だから。」
「どうして、魔法少女になったんですか?」
すると、咲代は急に邦夫の隣に来て、肩を組んできた。
「これからコンビを組んでいくんだから、もうちょっとフランクにいかない?そのですます調の話し方、やめよう」
急に美少女が自分の近くに来た邦夫は赤面しながら咲代の提案にこたえる。
「は、はい!そうします!」
「だから・・・」
「すいません・・・」
「私、あなたのこと、邦夫くんって呼んでもいい?」
「大丈夫・・・で」
「もう、ですます調はやめようって言ったばっかりじゃない」
なかなかなれない邦夫。若干人見知りをするタイプなので、最初からがつがつ来られるタイプの人間はあまり得意ではなかった。
「で、これからどんな魔法を教えてくれるの?」
「これから、って今からってこと?」
「うん。その白銀の書に書き込んでくれるんでしょ?」
咲代の近くには百科事典の様な書物が置いてあった。邦夫がそれを取ろうとすると、書物が浮き上がり、ばっとページが開かれた。
開かれたページは真っ白であった。何も書かれていない。
邦夫がページをめくろうとすると、真っ白なページに文字が浮かび上がってきた。
『わが白銀の書の主へ
ようこそ、魔法の世界へ。
これからそなたには多くの魔法を生み出してもらわなければならない。
魔法を生み出す方法は簡単だ。魔法の名前、発動方法、効果をここに書き込み、保存してもらえればいい。
魔導士、すなわちそなたの魔法少女はここに書かれた魔法を発動し、クエストや魔獣退治にあたってほしい。
それでは、楽しい魔法ライフをお過ごし有れ。』
ずいぶんとシンプルなシステムなんだな、と思った。
柳田の説明によると、各魔法少女のデバイス(書)に魔法を記憶することができる容量が100与えられており、魔獣退治やクエストを達成することで容量が追加され、さらに強い魔法や別種類の魔法を登録することができるようになるんだという。
「それにしても、新しい魔法というのはどうやって生み出せばいいんだろう?相談して決める、とか」
すると、ページに文字が表れた。
『それは魔導士と相談して決めて欲しい。』
「君は、会話ができるの!?」
『もちろん。できる。』
「すごいなー」
『それほどでも』
茶目っ気のある書物だな、と邦夫は思った。
「あの、花村さん」
「咲代でいいわよ。よそよそしいのはなし。」
「あ、はい・・・咲代・・・さん」
「まあ、いっか。何?」
「君はこの白銀の書のことについて詳しく知っているの?」
「どこまで知っているのが詳しくなのかによるけど、何も知らないわけではないよ。白銀の書はただの書物なんかじゃない。自分の意思を持ったデバイスなの。だから、会話もできるし、成長もできる。そういうデバイスなの。」
「へ~、すごいんだね。」
「そう?そういうデバイスじゃないと魔法少女として活動するのは難しいと私は思うわ。」
「そうなんだ。それは過去の経験からそう思うの?」
そう問いかけると、咲代ははっとした顔をした。なぜ、彼女がそういう表情をしたのか、邦夫にはわからなかった。
「ま、まあ、なんかうわさで聞いたけどね、そんな話を。」
「ふ~ん」
すこし違和感を覚えたが、その点について邦夫は深くは突っ込まなかった。
「じゃあ、さっそく魔法を書き込んでみてもいい?」
「もちろん。どうする?」
「う~ん、今はまだ何も魔法を使えないの?」
「うん、だって白銀の書には何の魔法も書き込まれていないもの。」
「じゃあ、この容量30の攻撃魔法と防御魔法を書き込むね。」
2人は白銀の書が示した魔法一覧のカタログを眺めながら、最初に装備する魔法を話し合って決めた。
「よろしく!」
「それじゃあっと」
邦夫は白銀の書のページに、そのカタログに書かれているやり方の通り、魔法の情報を書き込んだ。
書き込む項目は、①魔法詠唱の言葉、②その効果、の2点だけだった。
タッチパネルで入力をし、最後に完了ボタンを押せばその魔法が白銀の書に保存され、使えるようになるという流れだ。
最初に登録したのは、「プロテクション」と「アタック」の2つの魔法だった。
「詠唱は何がいい?」
「シンプルなのがいい」
という話し合いにより、詠唱は全ての魔法に共通になるように設定した。
「じゃあ、やってみるね。」
そういって、咲代はステッキを掲げ、魔法を発動する。
「神よ、そして全能なる白銀の書の主よ、この私に力を与えたまえ。プロテクション!」
そして、咲代の目の前には、白色の五角形の魔法陣が表れた。
「すごい!初めて見たよ、本物の魔法を!」
咲代は振り返って、感動に満ちた顔をした邦夫を見た。そして、にこっと微笑んだのだった。
同時に、
「久々の、感覚だわ。」
と、邦夫には聞こえない小さな声で、つぶやいたのだった。
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