「お姫様、さみしくないのかな」
朔が別荘に来てから、彼女の父が失脚したとの知らせが来るまでに、いくつもの贈り物が恋文とともに届いた。それらが、これから過ごすための資金となる。都に戻る者らに、別荘には素晴らしいものが多くあるので、買い取る先があれば姫の暮らしも安心できるのにと、忠義者らしく新たな雇い先で漏らしてくれと、真夏は頼んだ。そうすれば、それを聞いた誰かが買い取りたいと申し出てくる可能性がある。
どうせ姫は、贈り物を全て誰かに下げ渡してしまうのだから、そんなふうに真夏が画策をしていても、問題はないだろう。
わぁっと子どもたちが屋敷の中に走りこんでくる。里の者たちには、都の政情など関係のない話だ。子どもは特に、そうなのだろう。
「お姫様、何かあったの?」
袖を引かれた真夏は、自分を見上げてくる大きな瞳に首をかしげた。
「姫の様子がおかしかったのか」
ううんと子どもは首を振り、間違って妙なものを食べてしまったような顔をした。
「お屋敷の人、たくさんお出かけしているでしょう」
雇い入れの誘いを受け、都へ帰っていく者たちの姿を見たからかと、真夏は納得した。それを見て、朔に何かあったと感じたのだろう。
「姫の父上が大変なことになったから、都に様子を見に行くんだ」
子どもに真実を語ったとしても仕方がないだろうと、真夏はこういう言い方をした。
ふうんと子どもは門に顔を向け、キュッと唇を引き結び、ぽつりと言った。
「お姫様、さみしくないのかな」
去ろうとしている牛車が門にある。
「さみしくないように、遊びに来てくれるだろう」
真夏が子どもの頭に軽く手を乗せれば、子どもは「もちろん」と力強く請け負った。
「おにいちゃんも、都に行くの?」
「俺はここに残る。姫と、ずっと一緒にいる」
「そっか」
ふんふんと、自分の中で何かを確かめた子どもは、じゃあねと手を振り奥の庭へと走り去った。
朔は奥庭の簀子で、子どもたちと遊んでいるのだろうか。様子を見に行きたいが、先に屋敷の不要な調度や姫への贈り物などを確認し、それらをどう処理するかを考える事が先だと、納戸へ向かった。
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