真夏は、からりと笑って笛を出した。
「ここには、都の様子をこまごまと教えてくれる者がいない。父や兄、姉君のことを姫が案じても、知る手立てがないではないか。親類縁者などは知らせたくても、新しい権力者がどのようなことをするのか様子を探らねばならぬから、なかなか連絡を出せないはずだ。姫がどれだけ気にかけても、それは想像の範囲を超えることがない。その中で、たとえそれが残酷なことであっても、現状を知らせる術を作るには、この屋敷の者が都に行き、話を拾い集めて情報を送るしかない」
真夏の論議に、なるほどという空気が生まれる。
「ウワサというものは、真実と憶測が混在するもの。正しくないものが姫の耳に入り、それを姫が信じてしまったらどうなる。姫が今後のことを決める判断を、そのために誤ってしまったら、どうするのだ」
真夏はその空気を逃さぬように、たたみかけた。
「この屋敷を離れて都へ行き、そこで真実を調べて姫に知らせることが、ひいては後々の姫のためになる」
だから姫を思う心の強い者こそが、早々に都に戻るべきだと真夏は主張した。
「なるほど。しかし、それでは姫のお世話はどうなるのでしょう」
「芙蓉殿と最低限の下働きの者がいれば、姫は華美なことを好む気性ではないから、事足りるだろう」
「姫のおさびしい心をなぐさめるのに、芙蓉殿がいれば大丈夫かとは思いますが。芙蓉殿も、心細くなられておられるのでは」
「そこは、姫のお人柄がある。姉妹のように育った二人ならば、互いになぐさめ励ましあわれることだろう」
「屋敷の中が静かに、暗く沈んでしまいはしないかと気にかかるのです」
真夏は、からりと笑って笛を出した。
「俺は、笛を得手としている。姫の気持ちをやわらげるのに、多少の役にはたつだろう。それに、里の者たちは姫を慕っている。彼らには都の権力など関係がない。変わらずに遊びに来て、にぎやかしてくれる」
何の問題もないと、真夏は言い切った。屋敷の者たちは顔を見合わせ、ひそひそと小声でやりとりをした後、芙蓉に相談することにしようと決めた。
(きっと彼らは、都に戻るだろう)
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