第六章
(俺は、姫を恋しく思っている)
さざめく笑いを流す、簀子の上にいる女衆たちの中から、真夏はすぐに朔の姿を見つけた。
彼女が他の女房たちとくらべ、素晴らしい衣装をまとっていたから、という理由ではない。朔は贈り物の反物を、女房たちに惜しげもなく下げ渡してしまうので、彼女に仕えている女房たちは、そこいらの姫と比べても遜色の無い衣装をしている。朔の性格からか、女房たちの誰もが彼女に気兼ねをすることなく、どこぞの姫とも呼べそうな衣装を身につけていた。
その中にあっても、真夏の目は朔をすぐに見つけた。彼女のまわりだけ、太陽を吸い込んでいるかのように輝いて見える。真夏はそれが、自分の心が見せているものと自覚していた。
(俺は、姫を恋しく思っている)
紛れもなく、真夏は朔に恋をしていた。それを日に日に実感する。気持ちが刻々と大きくなっていく。
(彼女は俺を、なんと思っているのだろう)
見慣れぬ家人、としか思っていないのかもしれない。いや、きっとそうだろう。
けれど、と真夏は希望を胸に浮かべた。
舟遊びの時に、しっかりと彼女を腕に抱き、岸まで戻った。あの時のことを、朔はどう記憶しているのだろう。赤く染まった耳や、もたれすぎないようにと身を強張らせていた朔を思い出す。それは拒絶ではなく、はにかみからくるものだと、真夏は感じていた。
彼女は自分のことを、憎からず思ってくれている。思っていて欲しい。
(朔姫)
里の子どもたちが、わあっと集まってきた。蹴鞠を早く見せてくれと言う。真夏は朔の目を引こうと、他の誰よりも上手であろうと真剣に取り組んだ。
楽しげな笑い声が庭に響く。真夏の目には、朔がすこし疲れているように映った。昨日の舟遊びのことが、頭から離れず眠れなかったのだろうか。
年頃の姫は、父親とさえもめったに顔を合わせなくなる。そんな姫が男の腕に包まれたのだから、意識をして眠れなかったとしても、不思議なことではない。いくら奔放だとは言っても、そこは他の姫たちと変わりが無いだろうと、真夏は自分を少しでも意識をしていてほしいという願いと共に、不調らしい朔の姿を見た。
見ているだけではなく、自分も蹴鞠をしてみたいと子どもが言う。真夏は彼らに教えてやった。その最中、ふと誰かに呼ばれたような気がして、真夏は顔を上げた。
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