白銀の君は美しい【鉱石×人形企画】

山の端さっど

**1 白い少女**

 この星の樹には鉱石がる。

 樹によって成る鉱石はまちまちで、育てた鉱石の輸出で僕は暮らしている。


 この貧しい町では、僕のように、樹を育て、鉱石を売って生活する子供は珍しくない。

 そして、働く子供たちの夢は、いつかそのお金で自分だけの「クレイドール」……鉱物を食べて成長する人形を、買うことだった。


 クレイドールは、小さい子供が共に育っていく存在だ。 食べさせる鉱石により外見が変わっていく。そして、人間より成長は遅いけれど、同じように動いたり話したりできるようになっていく。

 ペットじゃない、家族の一員みたいになっていく。


 でも、貧しい子供はクレイドールを買えない。だから、僕らにとっては憧れなのだ。



「おい、タクト。お前、今日は何時に来る?」


 僕に話しかけてきたのは、チックと皆に呼ばれている赤い巻き毛の少年だ。生った鉱石を収穫して磨く仕事をしている。僕より年下だけど、年下にも年上にも、態度を変えているのを見たことがない。


「……ああ、あと数本、実の手入れをしてから。先にフローラをよろしく」

 僕は汗を拭って答えた。


「OK。早く来いよ」

 チックは集会所へ向かって駆けていく。



 フローラは、僕らがついこの間、みんなでお金を出し合って買ったクレイドールだ。まだ少ししか喋れず、ぎくしゃくと動く。みんなでルールを決めて、交代で世話をすることにしている。

 鉱石はフローライトをあげることにした。緑や紫をメインに、流れるような様々な色を持つ美しい鉱石で、僕らも数本の樹を育てている。


 僕はもう13になったけど、仲間にはまだまだ小さな子供もいる。親に捨てられたり死別した子も多い。そんな子たちの支えになったらいいと思う。



 僕は、花が落ちた後の小さな膨らみに袋をつけていく作業を再開した。

 フローライトのように、鉱石によっては、日の光を浴びせてはいけないものがある。でも、この樹は、樹自体の成長には日光が必要なのだ。だから、花が落ちたらすぐ、袋を被せる。

 僕は、こういう細かい作業を担当している。


「……元気に育てよ」

 声を掛けながら幹を軽くたたいた時。



    ガサッ



 どこかで、物音がした。


「誰だ?!」

 僕は身構えた。


 子供が働いているようなところは、よく泥棒に狙われる。気をつけないと、熟した鉱石をみんな持っていかれてしまうのだ。

 いつも気をつけているけど、今は夕方とはいえ、まだ明るい。作業用品以外何も持っていなかった。こんな時間に警戒しろって方が無理だ。

(クソ……)

 僕は懸命に木々の間を見渡し、耳を澄まして、音の正体を探した。


 小さな葉擦れの音がした。

「! そこか!」

 もし、武装した泥棒だったら……震える手で、高枝バサミを突き出す。



「誰?」



 幼い声と予想外の言葉に、僕は手を止めた。

「子供?」

 そして、ゆらり、と、奥から相手は姿を現した。



 透き通った白い肌、白く柔らかそうな長髪、大きく膨らんだレースのドレス。

 感情のない目が、僕をじっと見て、同じ言葉を繰り返した。


「誰?」


「だ、誰って……」


 僕は大きな音を立てて、ハサミを取り落とした。

 少女の姿に、一瞬見とれていた。


「君こそ誰だ! こ、ここは僕たちの鉱石畑だ、なんでここにいる?」

 僕は動揺して、矢継ぎ早に言葉を重ねた。


「……そう」


 少女は、言ってから首を傾げた。


「……もしかして迷子なのか? 名前は?」


「……そう」


「せめて何か言ってくれ」


 すると少女は、手の甲を突き出すように左手を差し出した。


 雲が動いて、強い西日が差しこんだ。

 その光景に、僕は言葉を失う。



「……『ソウ』、が、わたしの名前」



 少女の指先は、半透明の純粋な鉱石のように、茜色の夕陽を輝いた。

 全身に、反射した光が広がっていった。



「まさか……クレイドール、なのか?」


 全身が透き通る人間、なんて、クレイドールしか考えられない。でも、滑らかな手の動きをして声を発しているのが、人形だなんて到底信じられなかった。

 尋ねた僕に、少女は少しだけ首を振った。


「……わたしは『ミネオール』」


 ミネオール。それは、クレイドールが稀に成長して美しい姿に変化したものだ。鉱石の粋とでもいうような変化を遂げるらしい。

 とても珍しい現象だ。存在だけは聞いたことがあったが、見るのは初めてだった。

 いや、そんなことより……


「どうして、ミネオールがこんなところに居るんだ? 君の家族はどこに?」


 少女の服はとても上品そうで、大切にされているのが分かる。しかも、ミネオールだ。少女がいなくて、きっと心配しているに違いない。


「それは……」


 少女はためらう様子を見せた。


「あ、えっと……手、どうしたの」


 僕は口調を和らげた。もしかしたら、今まで大切に育てられてきたから、こんな風にきつく言葉を浴びせかけられて、ひるんでいるのかもしれない。


「……」


 少女は差し出していた手を握って、少しひっこめた。


 そのときようやく僕は、少女が握手を求めていたのかもしれない、と気がついた。手を縦にしていれば、気づけたのかもしれなかった。

「ごめ……」


「……ゃ」


 謝ろうとした僕を避けるように、少女は一歩、身を引いた。


「え?」


「やっぱり嫌……」



 そのまま少女は、僕に背を向けて走り出した。

 それは決して早くはなかったけれど、僕は、それを追いかけることができなかった。


 少女の瞳から涙が零れ落ちたのを、確かに見てしまったから。


 落ちた涙は、小さな結晶となって地に落ちた。




** - To Be Continued - **

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