キヲクを紡ぐは魔術の書.exe

淡谷桃水

第一章 ―綿菓子の彼女―

第1話 Prologue

 ――。


 俺は映画館のロビーで立ち尽くしていた。


 人が、倒れているのだ。


 一人や二人じゃない、何百もの人が。


 そう、俺以外、この映画館にいる人々は全員倒れているのだった。


「おい、大丈夫か、しっかりしろ!」


 俺は近くに倒れていた人に声をかけるが、何の反応もない。息もしているのかわからなかった。


 助けを呼ぼうと出口のドアを開こうとするが、どうしてかドアは開かない。押しても蹴ってもビクともしない。



 ――どうしたんだ、どうなってるんだこれは。



 妹達のことを思い出した。彼女達は今、四番シアターの中にいる。早く助けないと。


 しかし、俺には何も出来なかった。


 自分の無力さを呪った。俺はまた、その場に立ち尽くした。


 ――。


「ーレnーア、ワーーガーーヨ?」


 何処かから電子音のような声がする。


「それなら、わたしが助けてあげるよ?」


 今度はハッキリと聞こえた。


 俺は疑問符とともにその声が聞こえてくる自分のタブレット端末を取り出した。


 画面には蒼い瞳をした女の子が映っていた。蒼い髪が長く、電脳の世界でなびいていた。


 ――。


 非日常の始まりだった。

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