あの夏 僕はカノジョに出逢った

ゆうぼう

第1話「僕とクラスメートのカノジョ」


「今日も暑いな〜」


気温は30度。

ギラギラと輝く太陽。

うるさいながらもどことなく季節を感じさせてくれるセミの声。

今年もあの季節がやって来る。


太陽のように輝き、セミの様に沢山喋る、そんなカノジョと出逢った季節がやって来る。



あれは、もう10年前になる。

ちょうど今と同じ夏が始まろうとしていた頃に、僕とカノジョは出逢った。

高校一年生の1学期を終える終業式の朝の事だった。


「夏休みどこに行こうか?」

「やっぱり海かな〜」


クラスは、そんな話題でもちきりだった。


「まだ、夏休みにもなっていないのに随分と気が早いことだ。 試験勉強は、ギリ

ギリになって始めるくせに」


頭の中でそんな事を考えていた。

この時点で分かるように僕は、ひねくれた性格でとてもクラスの「中心的存在」と呼ばれる様な立場ではなかった。


でも、そんな僕にも友達はいたし、夏休みの予定だってちゃんとあった。

とは言っても、今で言う「陰キャラ」と呼ばれる僕や僕の友達が行く場所といえば、図書館や博物館といった、あまり高校生らしくない場所だけどね。


『一緒に海に行かない?』


そんな事を考えていた時、ふと聞き慣れない声が聞こえてきた。


「空耳に違いない・・・・・・」


僕はその声を聞き流した。


『ねえ、聞いてる? 一緒に海に行こ?』


やはり空耳ではないみたいだ。

横を向く。

そこには、太陽の光に照らされた茶色い髪が輝く女の子が机にもたれながら立っていた。


『やっと振り向いてくれた』


笑みを浮かべながらカノジョは言う。


「誰だっけ?」

『え〜 ひどいな〜』


おそらくクラスメートなのだろうが、人に関心が無い僕には、その子が誰なのかすら分からなかった。

普通、こんな事を言われれば誰だって、少しは不機嫌になるがカノジョは全くそんな素振りは見せなかった。


茶色い髪に、整った容姿、こんなに素敵な子に誘われて断る理由など普通の人間にはあるはずはない。


だけど、僕には「それ」があった。

僕は、昔からカナヅチで海どころかプールでさえ、ここ数年は授業以外では行ったことなどなかった。


「ごめ・・・・・・」


口を開こうと思った、その瞬間


『来週の土曜日に駅前に10時集合ね!』


あろうことか、カノジョに先を越されてしまった。

その押しというか勢いに圧倒され


「分かった・・・・・・」


少し低いトーンでカノジョに返事をした。


それが僕とカノジョの初めての会話だった。


僕とカノジョは、この時、お互いの名前すら分かっていなかった。



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