第2話 よろしく



ゆう「まじか…」


俺は下げていた頭を上げて翠の困り顔を見る。

翠は顎に手を当てて悩んでおり、あんなに無表情だった龍も俺のいきなりの申し出に口を開けてポカンと固まっている。


明日香「え!?な、なに!?なに!?何の話!?」


龍「お前…この国のことなんも知んねえのか…?」


龍が今度は怪訝な顔をしてそう聞いてくる。


ゆう「知んない…か。いや、知んないこともない。この王国が別名『狂気の王国』って呼ばれてんのはもちろん知ってるぜ?」


明日香「そ、そうなの!?」


あすかが今知った、という風に持っていたお盆を机に音を立てて置く。中のものはこぼれていないようでホットする。明日香は若干の涙目でこっちを見てくる。

いや、あの、そんな目で見られても…。


翠「…それは知ってた。でも、それを知ってなぜ弟子になろうと?」


ゆう「…今はまだ言えない。でも、絶対助けるって決めたんだ。そのためにはここにいなくちゃいけない」


龍「…のっぴきならない事情…っつーのか?」


ゆう「ま、そういうことだな!だから、頼む!もちろんちゃんと仕事はやる!だから弟子にしてくれ!」


翠「待って?弟子である必要は…」


ゆう「ないな!」


俺は翠の言葉に重ねるようにそう言う。そういうのはノリが大事なわけで、翠もずっこける真似をしてからちょっと待ってて、と足早に部屋を出ていく。


明日香「えー…そんな風に呼ばれてたんだ…」


明日香がまださっきのことを引きずっているのか、顔を伏せる。


ゆう「知らなかったのか?」


明日香「もちろん!!いや、そりゃ…うん…知らなかったよ…。それほどのことをしてきたつもりはないんだけどなあ…」


ゆう「…一応聞いとく。何をしてきた?」


明日香「え?村とかそこの村人の虐殺?ほら、それほどのことじゃないでしょ?」


…これが無自覚サイコパス。

龍はため息をつくとさっき落としていたナイフを拾い机に突き刺す。

そしてその行為に自分で「あ」と言う。


明日香「龍ー。それやめてっていつも言ってるでしょー?机が傷ついちゃう」


龍「あー…次から気をつける」


龍はそう言ってソファにドカッと座る。

それと同時に翠がその手に書類を持って戻ってくる。


翠「お待たせー。とりあえず!ゆう!」


ゆう「お、おう!」


ん?俺こいつらにゆうって呼んでくれって言ったっけ?…まあいいか…。


翠「こんなこと初めてだけど…うん!このお城にいていいよ!」


ゆう「おお!本当か!?」


翠「もちろん!その代わり食材の買い出しとかやってもらうからね?」


ゆう「もちろんだ!任せてくれ!」


そんな話をしていると、明日香がもう復活したのか机に手を付き身を乗り出し言う。


明日香「え!そんな話になってんの!?楽しそう!」


翠「でしょ!そして!ゆうの役職だけど…」


翠がペンを持って書類の裏に文字を書きなぐる。それ大切な資料じゃ…いや、まあ、いいか。

そしてそれを前に突き出す。

そこには__『騎士』と書かれていた。


ゆう「…騎士?」


翠「そう!俺らのことを守ってもらいます!いいよね?」


明日香「よーし!仕事教えるね!」


龍「…まあ、剣さばきも見てやるか」


ゆう「…!おう!よろしくな!」


俺は満面の笑みを返した…。

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