第26話

「ちょ」

「ちょっといいかな、宮本さん」

僕の声と遠藤部長の声が重なった。驚いて冒頭しか声にならなかったけど。遠藤部長が僕を見る。すこし口の端をあげたのは、まかせろの合図だろうか。そうなんだろう。

「なんでしょうか?」

「僕たちは日本語しか使えないんだけど、差し支えあるのかな? 幸いにして宮本さんは日本語圏の人だったから、こうして意思疎通に問題がないけれども、魔法の世界ではどうなるのかと思ってね」

まさに僕の聞きたいことがらだった。

「昨晩のLINEでは問題なかったっスね」と安高。まさにそこが疑問の出発点だ。

「ああ、そうですね。それは問題ありません」

「というと?」

「いま、まさにその問題が解決されています。こう考えてください。本当に私はいま、日本語をしゃべっているのでしょうか、と」

「ああ、なるほど。それは僕たちには証明できないね。つまり」

「これはすでに魔法なのです」

「え? どういうこと? LINEも魔法なの?」

「そんなわけあるか」

僕は安高にあきれた。

「万能ではありませんが、幸いにして日本語を基盤とするのであれば、まず問題はありません」

「なんだ、とっておきの翻訳アプリを用意したのに」

算所はつまらなさそうだ。その翻訳アプリは自作なんだろうか。

「どういうことなんですか、部長?」

安高の質問を受けて、遠藤部長が、すこしだけ、困った顔をした。なぜだろうか。

「まぁ、LINEくらい魔法だというところだね」

「まちがってないじゃん」と安高が僕を見た。

納得いかないけど、遠藤部長の困った顔に免じて許す。お前を許す。

「ほかにご質問は?」

4人で顔を見合わせたが、誰からも声は出なかった。はっきり言えば、思いつかなかった、が正解だ。

「では、行きましょう」

そういうと、宮本さんが手をたたいて鳴らした。つづけて手を鳴らす。乾いた破裂音が続く。

それにあわせて、彼女は帽子を身につけ、手袋が現れ、すこしづつ周りに光の粉としか言いようがない現象が現れ、ひろがっていく。

「ほう」

たぶん遠藤部長の声だろう。だけれど、たぶんと思えるほどに僕には音が光の粉になって散らばっていくかのように、おぼろげに聞こえた。

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