O.S Girl
@KAIRI11915
Act.1 ホワイト ミーツ ブラック
もうどれだけ走っただろうか。どれだけ地下に降りただろうか。どれだけ走ろうが、どれだけ隠れようが逃げ場はないとわかっている。だからこれは、逃げているわけじゃない。探しているのだ。それが何かは、いや何者かは知らない。知る術が無かったからだ。でも、縋るべき希望は、蜘蛛の糸は、きっとそこにしかない。だから私は、…真奈は、冷たい床を駆けるのだ。もう5階も地下に降りた。残すはあと1フロア。光はそこまで見えている。だが、小さな背中を追いかける闇もまたすぐそこまで迫っている。私は予定通り、研究資材の倉庫に入り鍵を閉めダンボールを被った。何故ダンボールを被るかって?古来から隠れるならダンボールと決まっているからだ。
「下だ!探せ!」
男の野太い怒号が聞こえる。彼らも必死なのだ。私を逃せば彼らも無事では済まないだろう。クビを斬られるか、もしくは文字通り首を斬られるか。だが同情して見つかりに行くわけはない。私も見つかれば無事では済まない。だってもうこんなチャンスは来ないからだ。重なる返事の後、数名の足音とカチャカチャと鳴る自動小銃の音が私の隠れる部屋の前を過ぎ去った。私は胸をなで下ろし、記憶の中の地図を頼りにダクトを探した。ここから下、ダクトを降って道なりに進めば目的地に着く。私はあまり体力がない。逃げ続けたってそう長くは持たない。だから隠れるルートを選び大体計算通りに追い付かれ、隠れることが出来た。
壁を探る右手が金属質の枠に触れた。これがダクトだろう。持ってきた六角レンチをネジ穴に差し込み、音を立てないように回す。猶予はあまりない。ここもいずれ人が来る。だが焦ってはいけない。落ち着いて、落ち着いて、ネジを外していく。4つ目のネジがスルリと抜け、ダクトはガコッという音を立てて外れた。あまり大きくないダクトは大の大人ならここを通ることは叶わないだろうが、子供で小柄な私なら通れる。ここを探すのは至難の技だろう。だからこそダクトを選んだ。これも古来からのやり方だ。私は匍匐し、ダクトの奥に向かって進み始めた。ダクトは給気口のようで、時おり冷たい風が通り抜けた。
「…うぅ。寒い…」
冷房なのだろう、少し冷やしすぎな気もするが文句は言っていられない。もう少し、もう少しと自分を鼓舞しダクトを進む。
そうすること数分。ダクトの奥に光が見えた。
「あそこ…だよね。人はあまり来ないって聞いてるけど…」
一応そこにいるのは研究対象なのだが、迂闊に触って戻せなくなるのが怖いらしい。そもそも起動すらしないらしいが、まあ当然といえば当然だろう。私は思いながら、内側からネジを外す。落ちかけるダクトの蓋はしっかりと掴み、内側に入れてしまおう。音が出ると大変だからね。私はダクトの穴からそっと体を下ろし、部屋に出ようとした。そのとき。
「この部屋は探したか?」
「いや、まだだ」
捜索隊の声が聞こえ、焦って落下してしまった。運動神経なんてありはしない私は、派手に落下し、
「っ!」
足をくじいてしまった。
「ん?」
「なんの音だ?」
気づかれてしまった。やっとここまで来たのに、最後の最後で。
「この部屋はなんの部屋だったか?」
「確か…なんとかっていうアンドロイドが置いてある部屋だ」
「そのなんとかってのが気になるんだよ…。まあ一応調べておくか。付いてこい」
「へいへい」
足音が近付き、カードキーをかざす音が聞こえた。ピッと子気味良い音を立ててドアが無音でスライドする。2人の捜索隊員は部屋を見回した。
「何も無いな」
「だがさっきの音は…」
「もしかして、そこのアンドロイドが動いたんじゃないか?」
「冗談言うな、まともに動きやしないんだぞ?」
「ははっ、それもそうだ」
笑いながら2人は部屋を出て行った。よかった。あと少しロッカーに隠れるのが遅れていたら見つかっていた。私はそっとロッカーを開き、壁に拘束され眠るアンドロイドに近づいた。10代くらいの少女に作られているのだろう、制服のようなものを着ている。
「…綺麗」
思わずそう呟いた。流れるような黒い髪と整った顔立ちは、そう言わざるを得なかった。私は彼女に繋がっているコードの一方、コンピュータとモニターを起動して彼女へ接続を開始した。
『loading…』
モニターは無機質な文字を表示し、ぼんやりと明滅した。やがてロードが済むと画面は真っ暗になった。ここから先は誰も見ていないのだろう。いつもここで研究はストップするらしい。当然だ。だって、
「私達以外には起動出来ないんだから」
ネックレスに擬態したマイクロUSBを取り出し、キーボード横のポートに差し込んだ。するとネックレスは光りだし、真っ暗な画面に長いコマンドが打ち込まれる。これこそが鍵。研究者たちが探すもの。
私はコマンドが打ち込まれたのを確認し、彼女に近寄る。モニターには
『command accept』
の文字が表示される。モニターは再度暗転し、コンピュータ自体の電源が落ちる。拘束具は外れ、彼女の体は倒れ込んだ。彼女に繋がれたコードは重さに耐えきれず抜け落ち、宙にぶら下がった。
「わっ…!」
彼女は私へと倒れ込み、彼女を支えきれず私は尻もちをついた。自然と彼女を私が抱きしめる姿勢になる。意外に軽い彼女の体は、とても機械とは思えないほど人だった。皮膚の質感や骨格、どれをとっても人としか思えない。
「えっと…起きて…」
彼女の肩を掴み、ゆさゆさと揺する。しかし反応はない。
「あの、起きて」
再度揺らすが、反応はない。
「お願い…起きて…!」
私は精一杯彼女を揺らした。しかし物言わぬ機械は沈黙を守ったままだった。失敗だったか。私は天上に見えていた光が遠のくように思えた。
「結局…私は…」
何も出来ないのか。私の中を無念が渦巻いた。肩の力を少し弱めた。そのときだった。
「ん…」
かすかなうめき声と共に、彼女は目を覚ました。ゆっくりと開いた深い青色の瞳は、ゆっくりと私を捉えた。
「やった…」
私は、すごく嬉しかった。私は彼女の肩を掴み直した。
「お願い、助けて」
彼女は依然表情を変えないが、ゆっくりと口を開いた。
「…あなたが、私のマスター?」
「え?う、うん」
「…マスターを登録。完了」
立ち上がり、無機質な声でそう言った後、彼女の瞳が輝いた…気がした。
「えっと、マスター、よろしくお願いします!」
「えっ、あっ、う、うん」
私はいきなりで生返事しか返せなかった。だが彼女は嬉しそうに私を見つめ、まるで仔犬のように指示を待っていた。
「あの、私はあなたを探しに来たの」
「どうしてですか?」
「…あなたしか、頼れる人がいなかったから」
嘘ではない。もう他に手段はなかった。そんなことは知らない彼女なさらに嬉しそうに私に詰め寄った。
「そうですか…えへへ…」
「お願い、私を助けて」
彼女は私をじっと見つめ、いきなり抱きしめた。
「もちろんです!マスター!」
「ちょ、声大きいって…」
私の心配はすぐに現実になった。
「誰だ!」
「いたぞ、ターゲットだ!」
先程の隊員が私を見つけたのだ。どうしよう。武器なんて一つもないし、彼女にも武器は見当たらない。
「ど、どうするの!?このままじゃ…」
「マスター」
「な、なに?」
「この人たちは敵ですか?」
思いがけない質問に少し戸惑ったが、すぐに首肯した。
「了解ですマスター!」
返事とともに肩甲骨辺りから金属質粒子が飛び出し、瞬く間に彼女を包んだ。
「な、なんだ!?」
「どうして起動してるんだ!?」
隊員は激しく動揺する。彼女はその間に姿を変えた。長く伸びるロングヘアはポニーテールへ、身を包む制服はアーマーに。
「…すごい」
これも未知の科学の賜物だろうか。彼女は隊員へ両手をかざし、私に向かって言った。
「いきますよ、マスター!」
「う、うん!」
返事と同時にキィィィン…という高音が鳴り、一瞬の静寂を破り爆発めいた音が鳴り隊員を吹き飛ばした。衝撃波だ。おそらく死んではいないだろうが、相当痛いだろう。
「さ、行きましょうマスター!」
彼女は私の手を握り、私を連れ出した。
To Be continued…
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