夜空に咲く花

時永 幸

序章

プロローグ


轟々(ごうごう)と燃え広がる炎を見ながら、ただ呆然と立ち尽くした。

ぎゅっと握りしめた手は、小刻みに震えていた。

真っ赤な炎の向こうに、ひとつ、ふたつと輝く花が咲いていく。


「…とにかく、今すぐここから逃げて!」


ドン、ドン、と…響いてくる花火の音。

色とりどりの花は、あの夏…猪名川(いながわ)の上空を煌びやかに照らしていた。


遠くで聞こえ始めたサイレンの音が、少しずつ近付いてくる。


「…望月(もちづき)、行こう」


そしてその声と共に、私の震えていた手が、震えるもう一つの手の温もりに、強く強く包まれた。


「何で…っ…何でこんな……」


憎しみ、悲しみ。寂しさ、悔しさ。

たくさんの感情が、目の前で燃え上がる炎と共に私の心を飲み込んでいった。


「…大丈夫。捕まる時は……俺らも一緒や」



間違っていた。

間違っていると、ちゃんとわかっていた。

それでも私たちはあの夏、泣きながら駆け出すしかなかった。

繋いだ手を、ぎゅっと握りしめて。


大切なものを守るために。

誤った罪を…犯したんだ---。




2010年、8月20日。

猪名川(いながわ)花火大会のあったあの夜。


「私は友達と三人で…猪名川の、花火大会に行っていました」


私は警察に真実を隠し、嘘をついた。


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