Twitter300字ss 虜囚

 虜囚の頬には大きな傷がある。かつて彼は騎士として多くを斬り英雄と呼ばれ、しかし国が傾き民らが起った際、守るべき王を弑しこの辺境に流されてきた。彼を簒奪者と呼び、恐れたのも同じく民だ。


「では、王をお守りするのが騎士道だったのですか。愚王と呼ばれ、奢侈に耽るばかりだった者のために戦い、困窮した民を斬ることが正義だったのですか」

「それを決めるのは私ではない」


 虜囚は穏やかに日々を過ごしている。左手のみの生活にもすっかり慣れた。


「……道ならぬ子だったのだよ、私は。道とはなんだろうとずっと考えている」


 彼は頬の傷に触れて呟いた。私は素振りを続ける。


「筋が良い」


 師が笑う気配がした。前王のおもてを私は知らない。




(300字)

Twitter300字SS企画 第74回 お題「道/路」

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