Twitter300字ss 飛ぶ奴と飛ばん奴

 思えば変な人だった。空を飛ぶことには些かの興味も示さぬくせに、人を飛ばすことには躍起になる。


「飛ぶ奴と飛ばん奴がいるだけだ、理屈じゃねえ」


 しかし彼の整備は理詰めだった。最後の最後に混じるほんのひとつまみの情で、機を子のように見守り、叱った。

 彼は「飛ぶ奴」であるところの私を空に送り届け、病に没した。後任の一番弟子も同じく「飛ばん奴」で、理屈と情の匙加減が彼そっくりだが、口煩さだけ二割増しである。


「無数の飛ばない奴が、ひと握りの飛ぶ奴を支えてる。設計、調達、運送、組立、生活を担う人」

「感謝してるよ。いい機だからきっと届くって信じてる」

「信心で飛べるものか!」


 必ず帰れと背を叩く手にこそ、信頼は宿る。




(300字)


Twitter300字SS企画 第75回 お題「届く」

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