Twitter300字ss 風光る里の花嫁

 晴れ着用の、とりどりに染められた布地がはためく尾根は満開の花畑のようだった。


 ――果ての砂漠から花嫁がやって来る。


 顔も知らぬ相手との婚姻は代々の習わしで、ことさらに感慨はないが、ほとんど身一つで嫁がねばならぬ女人を憐れには思う。よき夫婦になりたいとも。

 晴れ着は異郷の妻を歓迎し、文化に親しんでもらうための贈り物だから、花の刺繍と飾り珠を多く施すつもりだった。祝福と親愛が伝わると良いが。


 お見えです、と呼ばれ回廊に向かう。

 花嫁は眼下にたなびく布地を見つめていた。麦色の頬がふと和らぎ、紅い唇がほころぶ。


「初めまして、花咲き風光る里の若君」


 布地が花なら、あなたは貴石だ。心の鐘が高らかに鳴った。幸あれかし!




(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「咲く」

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