Twitter300字ss 狭霧の魔女

 晴れない霧を招いてほしい。視界が悪ければ飛べないから。



「って話だったんだけど。行かせちゃってよかったの」


 霧招きの魔女は、機械油で黒ずんだ作業服の背に声をかけた。機影が見えなくなっても、彼は微動だにせず白い月を見上げている。


「金は払うよ」

「当然だろ」


 土下座せんばかりに縋りつき、行かせたくないと喚いていたのはどこの誰だ。いざ人里に出てきてみれば、依頼は取り下げる、などと抜かす。


「空で死にたい、ってのが口癖だから。俺なんかが立ち入る隙はないかなって」


 招かずとも霧が出そうなほどに辛気くさい。べえ、と舌を出す。


「あんたが整備した機なんでしょ」

「そう」


 だからだよ、このわからんちんめ。あの子はきっと戻るさ。



(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「霧」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る