300字SSポスカ 花守人

 喪われたものが花になる。

 そんな国があると聞いて、取材に赴いた。

 海山を三つ四つ越えた辺境で、しかし花卉栽培を主産業とする小国には活気があった。花畑はまるで色とりどりの絨毯、陽射しはあまく香る。


 案内され、川べりに咲く桜を見た。

 片方は白の八重、もう片方は浅黄の花が鞠のようにまるく咲く。


「むかしむかしに、神さまの言葉の解釈をめぐって大きな戦争があったの。戦の後の枯れた大地にこの樹が生まれた」


 娘が幹に触れると、にわかの風に花びらが舞った。

 かつて朱に染まっただろう川は、澄んで清らだ。無数のかばねが憩う大地は慟哭をも呑み込んで国を支える。

 

 喪われたものが花になる。

 詩的ね。ふわりと微笑んだ唇に、ひとひらの、



(第4回300字SSポストカードラリー参加作 お題「桜」)

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