300字SSポスカ(番外編) 花盗人

 喪われたものが花になる。


 かつて地上を憐れんだ神が、山間の土地を祝福したのだそうだ。美しく咲き誇る花は民らの暮らしを支えている。


 多分に漏れず、争いの絶えぬ国だった。

 掲げられる旗も為政者も次々に変わり、そのたびに家々が瓦礫と化す一方で花畑は色鮮やかに染まり、芳香で満たされた。


 そして、今も。

「御名を汚し侮辱する者どもには神の鉄槌が下されるだろう。

恐れるな、正義を全うせよ!」

 白いマントを翻し、夫が天を指し示す。応じて剣が上がった。

 川向こうの人だかりにいる幼馴染みを憂う。

 聖典の解釈を違えた二派を分かつ溝は広がり深まるばかり。


 鬨の声が響く。


 ああ、季節が廻れば、ここも一面の花畑となるだろう。



(2017.4.1発行 サークル情報ペーパー掲載)

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