Twitter300字ss 天女のハゴロモ

 一目惚れだった。


 帰したくない一心で、ハゴロモを隠した。天に戻れぬ彼女は地上に留まり、ひとつ屋根の下で暮らしている。

 狭い家のこと、ハゴロモが見つかるのは時間の問題だ。ならば、とひと思いにばらばらにする。分解する。後戻りはできない。

 天界の素材への興味は尽きなかったが、光学迷彩布で覆ってクローゼットに押し込んだ。彼女に知られるわけにはいかない、今はまだ。


 季節が巡り、彼女がこちらの暮らしに馴染んだ頃、ハゴロモ――飛行用外骨格を返却した。双発のエンジンを単発に変更した軽装版を、二着。


「これで飛べるの?」

「もちろん」


 じゃあ行きましょう。迷いない笑みに誘われ、彼もまた、天へ。

 排気が雲となって白くたなびいた。



(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「帰る」

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