Twitter300字ss 海辺の画家

 画家は毎日海の傍にイーゼルを置いた。

 濃い青から薄い青、緑、赤、黄。さまざまな絵の具が無雑作に絞り出され、混ぜ合わされては、キャンバスに世界を生み出す。あらゆるいのちを、物語を描き出す。流暢に雄弁に。

 波は光の絨毯。駆け足で行き交う船。動物をかたどる雲。

 画家が毎日海を描くことは、町でも評判だった。多くの人が画家を遠巻きにし、時には大金を積んで絵を買い求めた。


「ねえ、わたしを描いてくださらない? あなた、とっても有名なんですのよ」


 金の髪をなびかせる女の言葉に、画家は筆を動かす手を止めた。海よりも空よりも青い眼が、すうと細まる。


「絵にも描けない美しさ、という言葉があるのですよ、人魚のお嬢さん」



(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「絵」

短編集「エフェメラのさかな」に収録した某短編より。画家と人魚はこうして出会ったのです。

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