第3話

 翌朝、多島くんからの返事はなかった。

 由希乃からメッセージを送ったわけではないから、返しがないのは当然で。

 なのに、なぜか理不尽な気持ちにさせられる。

 ――多島くんは何も悪いことをしていないのに。


 もやもやした気持ちのまま学校に行くと、友達が声をかけてきた。


「まーたイラついた顔してんね、由希乃。あの彼氏のこと? 返事くれないとか」

「え? あ、いや……そういうわけじゃ、ないんだけど……メッセージとかそういうの慣れてないっていうか……」


 スマホの中の多島くんと、普段の多島くん。

 あまりにもギャップがありすぎて、そっちの意味でももやもやしてしまう。

 なにか、自分が全く知らない顔があるような、そんな。


「あのさあ、由希乃のこと、あんまちゃんと考えてくれてないんじゃないの?」

「そんなことないよ! 毎日、顔は合わせてるし……いつも私が来るの待っててくれるし……」

「ふうむ……ま、がんばって。結局自分でどーにかするしかないわけだし」

「そ、そうだね、ありがと……」


(自分で、どうにか、って言っても……。

 でも、このままじゃ私も多島さんもどうにかなっちゃいそうだし)



 放課後。


 由希乃が、バイト前にいつものコンビニに寄ると、今日は多島くんがいない。


「どうしたんだろ……こんなの初めてだよ」


 自分が困らせたせいなのか、もう愛想つかされたのか、でもだったらあんなラブレター送ってこないだろうし――と、頭の中がゴチャゴチャになってくる。


 走って弁当屋まで来ると、


「あ! いた!」


 カウンターの中に多島くんが。

 慌てて店内に入ると、少し照れくさそうに声をかけてきた。


「やあ、おつかれ。ごめんね、叔父さんがちょっと留守だから店あけられなくて」

「なんだあ……むっちゃ心配して損したあああ」

「俺のこと? ごめんね。叔母さんが具合悪くて、叔父さんが病院に連れて行ってるんだよ」

「そう……」

「ん、どうかした? 麦茶でも飲む?」

「いらない」

「まだ機嫌直らない? プリン食う?」

「それ売り物でしょ」

「俺のおごりで」


 結局由希乃はプリンで餌付けされてしまった。


「ねえ……由希乃ちゃん」

「なんですか(もぐもぐ)」

「どうしたら機嫌直してくれる?」

「……そういう、問題じゃ……ないし……」

「じゃあどういう問題? やっぱ具合悪いの?」

「ちがうし」

「あのメッセージでは伝わらなかったのかな……。正直、何が正解か分からないんだ。頼むから、教えてよ」

「わ、わたしにだって、わかんないし! どうしてこんな……わかんないし……」


 由希乃は泣きながら飛び出して、向かいの本屋に駆け込んでいった。


「マジかよ……。もう、俺の方が泣きたいよ」


 途方に暮れつつ、由希乃が半分残したプリンを急いで掻き込む多島くんだった。

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