第2話

 コンビニデートの後、その晩も由希乃は多島くんにメッセージを送った。


「あした、あしたの朝、まで、がまん……がまん…………ううう……」


 すぐに返事が来ないと分かっていても、つい何度も見てしまう乙女心。


「はやく寝なさい! もー、そんな液晶ばっか見てると眠れなくなるのよ? あした学校で眠くなってもママ知らないからね!」

「はいはいわかりましたー」


 ぶつぶつ言いながら由希乃は、居間から自分の部屋に引っ込んだ。



 ――翌朝。


「あ、ああ! 来たー!」


 目覚めてすぐ、由希乃がスマホを確認すると、メッセージ着信の表示が。


「え……。なにこれ……」


 二日かかって届いた返事は、たった一行だけ。

 期待が大きかったぶん、由希乃はひどくがっかりした。




 学校に着くと、由希乃は早速友人に相談してみた。


「それさー、ありえなくない?」


 開口一番、友人は多島くんのことをバッサリ。


「んー……でも、忙しいのは確かだし……」

「私ならムリだなー、その彼氏」


(そっか……普通はムリなのかな……)




 夕方、いつもの場所で多島くんが由希乃を待っていると、彼女の様子がおかしいのに気付いた。


「や、由希乃ちゃん……?」

「……こんにちは」

「元気ないな」

「……べつに、大丈夫です。じゃ」


 ぺこりと頭を下げて、由希乃はその場から立ち去ってしまった。


「あ、ちょっと……。一体何があったんだ……」


 結局その夜は、退勤後の由希乃とは話が出来なかった。

 多島くんの顔を見ると、彼女は一言おやすみなさい、とだけ告げて逃げるように去っていったからだ。


「俺、マジで何やらかしたんだ? もうどうしたら……」


 コンビニ前で頭を抱える多島くんだった。


     ◇


 帰宅した由希乃は、バスタブの中で激しい自己嫌悪に陥っていた。


「私のバカバカバカ……。多島さん、なにも悪いことしてないはずなのに……」

 

 ……ぶくぶくぶく。


「でも……やっぱ返事返してくれないのって……なんか雑に扱われてる気がしちゃって……」


 ……ぶくぶくぶくぶく。

 いくらお湯の中で泡を吹いても、気が晴れることはなかった。



 由希乃が風呂から上がると、スマホに通知が……。


「あれ? もしかして……」


 急いでトークアプリを開いてみると、多島くんからだった。


「うあ……長文……」


 ひと目で数百文字あるのが分かる。

 改行が少なくて、漢字が多くて、びっしり……。


「そんな……」


 それは、多島くんからの、初めてのラブレターだった。

 正直、由希乃には少々重いと感じるほどの。


 概要は、


『気に障るようなことをしていたらごめん。

 こういうのに慣れておらず、知らずに君を傷つけていたのかもしれない。

 出来れば、顔を合わせて話がしたい。

 俺は本気で君のことが好きだ。

 このまま疎遠になるのは絶対に嫌だ――』


 文字で語る多島くんは、普段からは全く想像出来ないほど、固くて、愚直で、大人で、男で。

 普段は照れ屋なくせに、この差は一体???



 由希乃は多島くんに返事を送った。


『でも、顔を合わせてると言いにくいこともあるし……』


 素直に許すのもしゃくだし……と思っていると、すかさず返信が。


「うそ……。まだ起きてたんだ」


 由希乃は驚いた。


『そうか……なるべく君の意に添えるよう努力する。お休み』


 今度は、思いのほか短い返信だった。

 怒らせちゃったかな、と少し心配になった。

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