第9話 i:
わたしが、もし、いなくなった時に備えて、この手紙を君に残します。
いや、別にその予定が近々控えているというわけではないのですが、どういうわけか、わたしには子供の頃から有限感とでもいうのか、終わりがあることを必要以上に意識しているところがあって、こうした手紙をあちこちに残しています。
わたしがいなくなったら、君の手元に届くように手配をしているので、いま、君がこの手紙を読んでいるということは、きっとわたしはもういないのでしょうね(一度このくだりをやってみたかった)なんでわたしがいなくなったのかは、わかりようもありませんが、どうか悲しまないでください。わたしはいつも君の側にいます(これもやってみたかった)
さて、本題ですが、もし、君がまだジルと一緒にいるようならば、是が非でもお願いしたいのです。彼のことを。面倒みてやってください。もし、そうしてくれるならば、わたしの物はすべて君にあげます(わたしのスペシャルなアナログレコードコレクションも君の物だぜ! やったね! でも、ロンドン・コーリングとレット・イット・ブリードだけは売らないで。これは死ぬまで聴き続けてほしいし、その価値がある)
君は否定するだろうけど、君とジルは似ているよ。同族嫌悪というやつだね。自分の分身だと思って、末長く見守ってやってください。あぁ、そうだ。反対に、もうジルと一緒にいなかった場合(なぜ一緒にいないのかは大いに気になりますが)、それはそれで全部あげます。好きなようにしてください。(どちらにしてもすべては君の物だ)
あと、一応、答えておこうかと思うのだけれど、わたしが脚を引っ掛けた理由を君は知りたがってたよね? じゃあ、長年秘してきた真実を君に伝えてしんぜよう。
それはね、君のイヤフォンから漏れ聴こえてきた曲がアイ・フォート・ザ・ロウだったからなんだ。
訳わかんないだろ? わたしにもわからない(笑)たぶん、それがオリジナルでもブライアン・セッツァーでもグリーデイでもなくて、クラッシュだったからなのかもしれません。
いや、嘘かも。
なんにせよ、今となってはわかりませんが、結果、わたしの直感は正しかったようなので(あれ? 違う?)そんなことは些細な問題です。もう気にしなくていいよ。しかし、あの時、君が派手に転んで頭を打たなくてよかったと、いまさらながら思います。いまのわたしなら、全力で当時のわたしを止めるね。
では最後に君にひとつ、わたしが座右の銘としている大好きな言葉を贈るよ。
君にはこいつが足りない。
「Reach for the moon, even if we can't.」
ではでは。
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