第61話 (閑話)王女ソフィア
※今回は閑話(番外編)で、本編であまり登場しなかった、ソフィア王女についてのお話です。
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王女ソフィアは、『癒しの姫』として国民に親しまれ、そして愛されている。
母親譲りの優しい眼差しと愛くるしい笑顔、さらに優秀な治癒術師でもある王女の人気は高く、その彼女が病の床に伏せているという情報は、民を大いに心配させていた。
そんな彼女だが、城内では別の一面を見せていた。
古くから王家に仕える者から言わせれば、どちらかと言えばその行動力と自分や従者に対するストイックな厳しさ、さらに行動力も考えると、今は亡き彼女の伯母、ファナ姫に似ているという。
しかし、その厳しさは決して嫌がられるものでは無く、むしろ、尊敬されるものだという。
立場の弱い者には優しく、上に立つ者に対しては毅然とした態度で臨む。
つまり、王女ソフィアは、カリスマ性に秀でた、優秀な姫君だったのだ。
そんな彼女が、セントラークス魔法学校に入学したのは十二歳の時だった。
常に二人以上の護衛が付き、凛としているその姿と、王女という身分の高さに、同級生も、教師さえも彼女に話しかけることを躊躇したという……ただ一人の例外を除いて。
ユナ・ロックウェル……中級貴族の娘であり、雷撃型というレアな属性の魔法を操り、そして体術の面においては完全にソフィアを圧倒する彼女。
身分の差を超え、互いに尊敬し、分かり合い、そして気軽に話し合える親友として、約三年間、常に行動を共にしていたという。
そして二人とも魔導師の資格を得て無事セントラークスを卒業、ユナは家庭の事情もあって冒険者として生きていく道を選び、そしてソフィアは、王家の期待を一心に背負う姫君として、さらに成長していった。
そこで起きたのが、『呪怨札』を用いた襲撃事件だった。
彼女自身、一体何が起きたのか、よく分からないという。
城内の中庭で、一般の民に治癒魔法を使っていたことまでは覚えていた。
しかしその後、長い長い夢を見ており、そして次に目を覚ましたとき、その瞳に映ったのは、精悍な……というよりは、少し粗野な、悪く言えば盗賊のような風貌の、鋭い目をした男性の顔だった。
そして自分が目覚めた事に対する周囲のどよめき、歓声に、非常に驚いたという。
国王である父、王妃である母が、涙を浮かべて駆け寄ってきた。
それで、自分が大きな事故か、あるいは突然病気で倒れ、ずっと寝込んでおり、今、意識を回復したのだと認識した。
周囲が笑顔で溢れていたのに対して、その鋭い目の男性と、彼の仲間と思われる数人の冒険者達が、憂いを含んだ表情であることが、ひどく彼女の印象に残った。
そして彼女は、自分の身に起こった出来事の詳細を聞かされ、襲撃されたこと、強力な呪いをかけられ、長い間意識を失っていたという事実に、愕然とした。
さらに、その粗野な男こそが、自分の呪いを解いてくれた人だと聞かされ、正直なところ、ああ、やはり現実はおとぎ話と違うのだな、と考えたという。
その手のおとぎ話の定石は、眠れる姫君の呪いを解くのは、白馬に乗った優しい王子様であったからだ。
それよりも衝撃を受けたのが、彼等の仲間の一人が自分の親友であるユナであり、猛毒を受けて瀕死の状態であり、あえて呪いにより石化させられているという事だった。
ソフィアは動揺し、自分もユナを助け出すために旅に出る、とまで申し出た。
しかし、それを最も諫めたのが、自分を助けてくれた粗野な男だった。
「おやめください」、となだめてくるだけの騎士隊長や大臣達と違い、彼、アクトは、王女という身分故に、かえってユナを助け出すための重荷になるとまで言い切った。
その言葉に、最初は怒りを覚えたが、解呪の白杖を巡って、騎士隊長や大臣達に一歩も引かぬ態度を見て、ああ、彼は本気でユナを救いだそうとしているのだと理解した。
そして彼の側について、父や母に、
「この方の言うとおりです!」
と訴えかけ、持ち出し許可を出してもらったのだ。
その事に対してアクトはソフィアに礼を述べたのだが、どこで覚えたのか、その仕草はまさしく騎士のそれであった。
そして後に、彼が伝説の勇者と自分の伯母の息子……つまり、本物の王子であったことを聞かされ、今度は、ああ、物語の通りだ、と驚愕したという。
彼は、定期的に城を訪れ、ユナに対する情報をもたらしてくれた。
大治癒術師・アイゼンハイムの協力が得られることになったこと、ただ、その力を全力で発揮するには、半年近く待たねばならないこと。
ユナが復活する見込みが出てきたことに、ソフィアは素直に喜んだが、それと同じぐらい、アクトと会うことを楽しみにしている自分に気がついた。
しかし、年齢が離れていることもあり、彼は自分のような生意気な小娘になど興味は持たないだろう、それよりもあれだけユナの復活のために全力で望んでいるのだ、きっと彼女と恋仲なのだろうと、一人解釈して気を紛らわせていた。
そんなソフィアの気持ちを知ってか知らずか、母親が真相を話してくれた。
偉大なる『
彼女が本格的な恋に陥るのに、それほど時間はかからなかった――。
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