第54話 (番外編)相談所、再開!(中編)

 クルトさんは、最高に幸せに結婚できる相手がカリーナさんであること自体は、喜んでくれた。


 しかし……カリーナさんにとって、それが自分であるとは限らない、と悲しそうに言った。

 本当のことを言えば、逆もまた真なり、だが、それを言うことはやめておいた。

 現時点で、彼が彼女と結ばれる手段が、思いつかなかったからだ。


 俺の『究極縁結能力者アルティメイト・キュービッド』は、最も幸せになれる結婚相手を示してくれるが、二番目、三番目に幸せになれる相手は教えてくれないのだ。


 ただ、彼は、一番幸せになれる相手が彼女だという占い結果に感謝してくれた。

 しかしそれでも、寂しそうに帰って行くその姿を見て、ユナは、


「うまくいかないこともあるね……」


 と、めずらしく? 俺を励ましてくれた。


「……タクは、自分が幸せになれる結婚相手、見えない事は不安じゃないの?」


「ああ……前にも言ったけど、それって普通だからな……」


「そうね……私の理想の相手が分からないのも、普通よね……」


「そうだな……けど、いつも言っているとおり、俺はユナがそうだと思っている……」


 ぼそりと呟いた俺の言葉に嘘がないか、彼女は嘘を見分けるレアアイテム(The verify ring:真偽判定の指輪)で確認する……これはいつものことだ。


「ありがと……で、いつ結婚してくれるの?」


「まだ早い……」


 それに対して、


「えー、ひどい……」


 と、彼女は不満そうな声を漏らす。

 これも、いつもの会話となっていて、俺が


「いますぐでも構わない」


 と言うと、それはそれで


「うーん、考えとく」


 とはぐらかされるわけで……まあ、俺とユナの仲は、現在こんな感じだ。


 それから三日後、日も落ちて、そろそろ店を閉めようと思っていたときに、クルトさんが血相を変えて走ってくるのが見えた。


 ちょうど、ユナも、隣である自分の店、『ユナ超級ハンター依頼受付所』を閉めているところで、彼の姿を見つけたようだった。


 クルトさんは息を切らせながら、


「大変な事になった!」


 と、早口でまくし立てた。

 俺もユナも、彼に落ち着くように言って、とりあえず店の中に入ってもらい、水を一杯のませ、話を聞いてみる事にした。


「きょ……今日の朝から、いつもなら遅刻したこともない彼女が、勤め先のパン屋を無断で休んでたんだ……昼になっても、なんの連絡もない。心配になった僕は、自分の店を早退して、彼女の家に行ってみた……そしたら、一緒に住んでいるカリーナのお姉さんがいて……えっと……昨日の夜は、彼氏の家に泊まりに行って、直接出勤するって言ってたらしいんです……」


 それを聞いて、ユナは思わず、


「うわっ……」


 と言ってしまった……俺も、相当きついな、とは思ったが。


「……でも、そうだったとしても、勤め先を無断で休むなんて、真面目な彼女は滅多にある事じゃない。ただ、僕はその彼氏の家は知らない……けど、彼の勤め先は聞いていた。この街でも有名な貴金属店で、そこのチーフだって言う話だったから。僕なんかが気軽に入れる店じゃなかったけど、カリーナの事が心配だったから、思い切って入って、店員にその彼……ビョルンを呼んでもらうように告げたんだけど……その人は怪訝そうな顔をして、『そのような名前の方は、この店には勤めていません』って言ってきたんだ……」


「……えっ……それって……どういうこと?」


「僕も、訳が分からなかった……そんなはずはないって、ついムキになって言ってしまったら、その上司らしき人が出て来て、奥の部屋に連れて行かれた……そして、こう言われたんです。『その男性、ビョルンさんの名前を言ったのは、今月に入って、貴方で二人目です。もう一人の方は、別の女性の母親で、娘が帰ってこない、ここにビョルンという名の男がいるはずだから会わせて欲しいと、一週間ぐらい、毎日来ていました』と……」


 ……正直、彼が何をいっているのか、よく分からなかった。


「……えっと、つまり、ビョルンという名前の男の人はその店にはいなくて、なのに彼のことを探しに来た母親がいて、その娘さんが行方不明、ってこと? カリーナさんとは別で?」


「……そうなります……」


 彼の不安げな言葉に、俺もちょっと寒気がする思いだった。

 実際には存在しないビョルンという名の男と、行方不明の女性が二人……。


「……タク、その男の人、なんか怪しくない?」


「ああ、俺もそう思った……それで、あなたがここに来た理由は?」


「えっと……彼女の居場所を、もし占ってもらえるならと思って……藁をもつかむ思いなんです……」


 彼は相当焦っているようだったが、それは正しい行動だった。


「それは正解でしたね。俺には見える……貴方とカリーナさんを結ぶ、運命フォーチューンラインが。そしてそれを辿っていけば、かならず彼女に会える!」


 俺が出かける準備をするようにユナに指示すると、彼女も大きく頷いて、それに応えたのだった。

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