第53話 (番外編)相談所、再開!(前編)

今回は番外編で、タクヤとユナがいくつかの冒険を終え、一旦サウスバブルの町に戻った頃のお話です。

(時系列で言えば三章より未来になります)。


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 この日、朝一番で『タクヤ結婚相談所』にやってきたのは、二十代前半ぐらいの、全体としては素朴な雰囲気ながら、整った顔立ちの美人さんだった。


 服装も、決して派手ではないが、かといって地味ではなく、垢抜けた雰囲気だ。


 俺としては、結構好感が持てるタイプなのだが、この日もユナが『助手』と称して恋愛相談に参加してきたので、うかつに来客に見とれたりできない。


 ちなみに、ユナは星四つ、超級のハンターで、魔導剣士。

 縁あって、いくつもの大冒険を共にした仲であり、一応、恋人同士? と言えるのかな……。


 ちなみに、俺は制約により、自分の理想の結婚相手は見えない。

 そしてなぜか、ユナの理想の結婚相手も見えない。


 これは、彼女が誰と結婚しても幸せになれないか、あるいは相手が俺だから、制約に引っかかって見えないのかのどちらかなのだが……もちろん、俺としては後者であることを臨んでいる。


 さて、ほとんどのお客さんの目当ては、もちろん『最高に幸せになれる結婚相手がどんな人なのか』を占ってもらいに来るのだが、この日の客である彼女の場合、『今付き合っている彼氏が、本当に幸せになれる人なのか』を見てもらいに来たようだった。


 ほんの少しだけ、テンションが下がる。


 これは、別に『美人さんに彼氏がいたから落ち込んだ』と言うわけではなく、占い結果がその彼氏でなかった場合、ガッカリさせてしまうのが気の毒だからだ。


 その彼氏に対しても申し訳ない気持ちになる。

 まあ、大抵の場合はそのときの彼氏が最も幸せになれる相手なのだが……。


 なので一応、


「彼氏がいるのなら、占い結果がご期待に添えないことがありますよ」


 と警告したのだが、


「もちろん、それでもかまいません。でも、これで彼が最高のお相手と証明されれば、一生幸せが約束されるのでしょう?」


 と、すでに幸せそうな顔をみせた。

 うん、心の底から相手のことが大好きな、恋する乙女なんだろうな、と、うらやましくすら思った。


 と、背後でコホン、とわざとらしい咳払いが聞こえた。

 ユナが、何か言いたげな表情をしている……いや、誤解だから。

 彼女によると、どうも俺は、綺麗な女性がお客だとデレデレしているように見えるらしい。


 俺はちょっと冷静になって、きちんと占いに戻る。


 名前はカリーナ、年齢は二十二歳。

 現在、交際を始めて一ヶ月の彼氏がいるという。

 一ヶ月でもう結婚を考えているのか……やっぱりちょっとうらやましい。


 事前に占いのシステムを説明する。

 今から、彼女がこの世で一番幸せになれる結婚相手を占うこと。

 見えたイメージを言葉として伝えること。

 もし、イメージだけで誰のことだか分からないようであれば、別料金が必要になるが、その相手の元まで同行することも可能であること。


 そしてもっとも特徴的な事は、もし占いが外れた場合、料金は全額返金すること。


 この最後の言葉には、彼女はかなりビックリしていたが、今まで二百人以上占って返金された事はない……つまり、外れたことはないというと、なおのこと驚いていた。 


 そして俺は、占いを開始した。


「……素朴な感じの青年が見える……歳は二十歳ぐらいだろうか。皮製のカバンや財布なんかを作る仕事をしている。真面目な仕事ぶりだ……彼の師匠……おそらく父親からも褒められて、工房を引き継ぐ話しも出てるみたいだ……」


 と、俺がそこまで話しをすると、彼女は、えっと驚きの声を上げ、両手で口元を覆った。


「そんな……クルト、まさか……」


 あきらかにうろたえた様子だ。どうも、今の彼氏とは違っているようだ。


「あの……あくまで占いなので、気に入らない結果だったとしても、落ち込まないでくださいね」


 ユナがそうフォローしてくれるが、大したフォローになっていない。

 彼女、相当落胆しているようだったが、律儀にお礼を言って、お金も払ってくれた。


「……ひとつだけ、アドバイスをするなら……今の彼氏と結婚しても、必ずしも幸せになれない、というわけではありません。そもそも、幸せの定義なんて一つじゃないですし……」


 しかし、言えば言うほど、彼女は落ち込んでいく。

 ユナからも、小声で


「フォローになってない!」


 と注意されてしまう始末だ。


「……いえ、ありがとうございます。クルトは私の幼馴染みで、とっても仲の良い男の子ですよ。ただ、年下で、私にとっては弟みたいな存在でしたから、恋愛対象と見ていなかっただけです。確かに、結婚すれば、平穏無事に、幸せになれるのかもしれませんね……」


 と、けなげに笑顔を浮かべてくれた。

 うーん、意中の相手ではなかったけど、怒るような結果ではなかった、ということか。


 ただ、その後ユナが、


「私もちょっとした占い、できるんですよ。あなたは、潜在的に不思議な力をもっているようなので、それを占ってみてもいいですか? もちろん、それは無料です」


 と言い出したので、そんな事できるのかと思ったが、意外にも


「あ、はい、私の周りでは不思議な事がよくおきるので、ぜひ……」


 とカリーナさんが言うので、ユナはある魔法を彼女に使った。


 ……なんの事はない、『魔力検知』の魔法だった。

 しかしその結果に、ユナは目を見開いた。


 そして、


「……貴方には、結構な量の『魔力』が存在します。普段は落ち着いていますが、感情的になると、それが表に出て来ます。めったにそんなことはないのかもしれませんが……ときに人を傷つけるかもしれませんので、気を付けてくださいね」


 と、アドバイスをして、こちらは素直に受け入れられたようだった。

 こうして、彼女は帰っていったのだが……なんとなく、占いの相手が意中の相手ではなかったというのは、後味が悪い。


 ユナも、


「ちょっとショック……今まで、割と大喜びしたり、顔を赤らめたりっていうパターンが多かったのにね……」


 と、気にかけていた。


 さらにユナは、彼女には語らなかった秘密を、俺にだけこっそりと教えてくれた。


「カリーナさん……わずかにだけど、たぶん魔族の血が流れている……」


 この言葉には、俺もちょっと驚いたのだった。


 そしてこの日、夕方にもう一人来客があった。

 素朴な感じの青年。歳は二十歳ぐらい。

 はて、何処かで見たことがあるような……。


「……ひょっとして、クルトさんですか?」


 と尋ねてみると、


「ど、どうして僕の名前を知っているんですか?」


 と、驚かれてしまった。

 だって、朝、占いの中で顔、見えたから……。


 もちろん、そんな事は言葉には出さない。

 相変わらず暇そうなユナもやってきて、占いに参加。


 クルトさんは、もし自分に似合うお相手がいるのならば、占って欲しいと真面目に依頼してきた。


「好きな人はいないのですか?」


 とも聞いてみたのだが、


「……いえ、その人にはもう、お似合いの方がいますから……逆に言うと、だからこそ、本当に僕が幸せに結婚できるならば、その方を紹介していただければ嬉しいです……」


 と言ってきた。

 つまるところ……好きな女性、カリーナさんをあきらめようとしているのだ。


 でも、彼の場合、占うまでもなく、一番幸せな結婚相手、分かっているんだけどな……。


 しかし、カリーナさんが来たなんてことをばらす訳にはいかない。

 俺は真面目に彼のことを占い、そして見えたイメージをそのまま告げた。


 その占い結果、相手がカリーナさんであることに、クルトさんはもちろん、(多分名前を忘れていた)ユナも、大いに驚いたのだった――。

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