第32話 戦闘兵器

 占いの結果により、最初の目標は決まった。


 レンジャー(潜入などの特殊技能を身に付けた冒険者)であるアクト、本名アクテリオスに会うことが第一だ。

 そこから先は、まだ具体的には決まっていない。

 なぜなら、彼は


『呪いを受けて眠り続ける王女ソフィアにとって、最も幸せになれる結婚相手』


 というだけであり、それが彼女が回復する手段には、直接結びついているわけではないのだ。


 しかし、彼が王族の血を引いていると分かった時点で、皆、運命的な何かを感じずにはいられないでいる。

 まずは彼に会い、話をして、そして解決可能な手段を見つけ出し、あわよくば、この城に連れてくるのだ。


「見ず知らずの彼だが、城内に入れることを不安に思う必要はない」

 と、国王陛下は声を上げた。


 少なくともアクトは、姫が最も幸せになれる相手なのだ。

 そして誰が、彼を迎えに行くのか、という話については、これはもう、デルモベート老公の占いにより選出されていた。


 まず、俺の名前が真っ先に呼ばれた。

 占いで彼を見つけ出した張本人だし、近づけば、ソフィア姫につながる『運命フォーチューンライン』も見えることだろう。


 ソフィア姫側からも、ラインが伸びているのが見えるのだが、彼女を連れて行くことはできなし、目の前の人間でなければ糸は見えないので、それを辿って彼を捜すことは不可能だ。


 しかし、こっちは、ユナという切り札がいる。

 彼女は、アクトと面識があるし、彼が大体どの辺りにいるのか、想像できるという。


 彼は、現在、とある地方で重点的に活躍しているのだという。

 何かを探している風だったが、具体的なことは会って聞いてみればいいのではないか、とのことだった。


 そして剣士ユアンも、この旅に参加する理由は十分にあった。

 次期領主として貴族の仲間入りを果たす前に、『王女を救うため』のこの使命を、しかも、国王陛下直々に受けるのだから、願ってもない好機のはずだ。

 その剣の腕も凄まじく、頼りになる護衛となってくれる。


 彼の婚約者であるミウは、どうしても旅に必要かと言われれば微妙かもしれないが、少しでもユアンと一緒にいたいと思っているだろうし、何より、あの真竜にトドメを刺した上級氷結呪文は本物だ。

 教養も豊かで、数カ国語を話せるという。


 旅には不慣れな面もあるが、そんなに危険な行程になるようには思えないし、この機会に見聞を広めるのもいいだろう、と、オルド公は彼女を後押ししてくれた。


 そして医者であり、治癒術師であるジル先生は、ある意味、一番重要な存在だ。

 我々の中では最も経験が豊かな大人だ、様々な面でみんなのサポートをしてくれるだろう。


 そして残る一人は、デルモベート老公の孫弟子である、少女ミリアだ。

 彼女は……あれ?


 なんで彼女が選ばれたのだろう……。


 他の五人は、この地を訪れる前からの、いわばパーティーメンバーだ。

 そういう意味では、老占術師の占いで、共に旅立つと予言されてもおかしく無いのだが、ミリアだけ異質な存在だ。


 デルモベート老公の話では、彼女はここに連れてくるには若過ぎると判断し、城内の休憩室に残してきたのだという。


 確かに、十二歳ぐらいの子供の様に見えた……それも、無表情で取っつきにくい感じの。

 もう一度彼女に会って欲しい、というデルモベート老公の言葉で、この部屋を退出することとなった。


 ユナは、


「ソフィー……絶対助けてあげるからね……」


 と、眠れる王女にしばしの別れの挨拶をしたのだった。


 帰りの城内を進む道順は、デルモベート老公やジフラールさんに案内され、一緒に歩くことになった。


 と、いうことは……あれだけの時間で、ずいぶん信用されるようになったということだろう。


 そのままミリアが待つ休憩室にむかう……と思いきや、先頭の二人は、明らかに別の方角に歩き出した。

 廊下から、階段を下り、屋外に出て、赤土の上を進む。


 このままだと、城外に出てしまう――と思いきや、そこには、兵士の訓練施設のようなものが存在していた。


 しかし、最近はあまり使用されていなかったようで、かなり荒れており、あちこちに痛んだ人形のようなものが杭に刺され、放置されていた。


 そのすぐ脇に、一人の女の子……ミリアがいたのを見つけて、みんな大声をあげて驚いた。


 まるで、こちらの行動を把握しているかのような……。

 しかし、この後、そんなものとは比べものにならないほどの驚愕を受けた。


 彼女……ミリアは、普通の人間ではない。


 その本質は、『敵の殲滅せんめつ』を『遂行』するために『開発』された、『戦闘兵器』だったのだ――。

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