Snowdrop

笠井 玖郎

*

 幼い頃、僕の隣にはいつも彼女がいた。

 花のように笑う、優しい彼女。僕はずっと彼女が好きだった。

 ずっと隣にいようと思ったのは、幼馴染だからじゃない。僕の隣が君だけであったように、君の隣にいるのも、僕だけでありたかったんだ。


 事故に遭った。そう聞いたのはもう2週間も前のこと。

 未だに彼女は目覚めない。微かに上下する胸元だけが、彼女が今も生きている事を証明していた。

 見舞いの度に増えていく花。小さな花瓶に一杯になったそれを、大きな花瓶に移し替える。

 彼女が好きだった白い花。希望を意味するその花を見るたび、病室でふたり話したことを思い出す。

 彼女はよく身体を壊した。その度に僕は見舞いに行き、僕の持ってきた花を見て、彼女はこう言うのだ。


「この花が散る時、私は死ぬの」


 儚くも危ういその姿に、不謹慎ながらも見惚れてしまった。

 絶対に散らさせないから、と言って同じ花ばかりを持ってきながらも、思うのだ。

 花のように笑う彼女の、花のような散り様を。


 長い睫毛に縁取られた両の瞼は、もうずっと閉ざされている。

 もしもこのまま目を覚まさなかったら。

 そんな思いを振り払い、今日も同じ花を窓際に添える。

 雪のような白い肌の君に、雪の名のつく花を贈ろう。

 どうか早く目を覚まして。この花が落ちてしまう前に。


 僕が散らしてしまう前に。

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Snowdrop 笠井 玖郎 @tshi_e

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