ー万年筆入手以前ー

万年筆向きの人

 万年筆使いには向き不向きがある。というのも構造上、使用しない日数が続くとペン先が乾いて書けなくなってしまうのだ。習字の筆で墨汁を洗い流さぬまま放置すると筆先がカチカチに固まるのと同じである。もちろん書ける状態に戻すことも可能だが面倒なことには変わりない。ボールペンならほとんど無用の心配である為、万年筆は道具として高等である。

 とにかく紙媒体に日々何かを書く人、というのが一等の要項であろう。日記を書く人には良い友になるが、紙によってインクが滲んだりする都合で仕事には向かない。

二等は物持ちの良さだろうか。アメリカ式の大量生産大量消費生活が好きという今の時代に生きる健全な人に万年筆は向かない。

三等以下はあまり気にする必要はないだろう、上記二つがとにかく肝要である。

 ボールペンのなかった時代を想像してみてほしい。学生諸君には想像しにくいかもしれないが、社会人にとっては職場にボールペンがないなどあり得ない。万年筆はボールペンが開発される以前は実用品であったが、現代では趣味嗜好の品である。

 それでも万年筆特有の書き心地、たたずまいの美しさ、使用を重ねるうち手に馴染なじむ特性など、ボールペンがどれだけ普及しようとも打ち捨てられない理由は多くある。

 まだ万年筆を使ったことがないという人はぜひ使ってみるとよい。少し前に流行したおかげで敷居はいや下がったし、試しに買える安価なものも増えた。かつての文豪が万年筆を愛用したことを知っている人も多いだろう。色々な意味で少し特別な筆記具だ。何より使っていて心地が良い。

 ちょっと万年筆に興味を持ってもらえたら、以降も読んでみてほしい。人を魅了する魔性の筆記具、その魅力の片鱗へんりんを少しでも楽しんでもらえるよう努める所存だ。

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