第四章⑦

 信じられるわけがない。大丈夫なわけがない。それが出来るのなら、そもそもニートになんてなってない。

 甘えるんじゃない? ニートにならなければ、逃げ出さなくてはならないほど弱った自分の辛さを理解もせずに、よくもまぁそんなことが言えたものだ。

 特に、山本のように中学校から引きこもり、ニートになっていると、自分の家族以外とも中々接点が持てなくなる。世界が、自分だけで閉じてしまうのだ。それ故、まず人とどう話せばいいのかが分からなくなる。ネットがあれば他の人とのつながりも持てるが、直接面と向かって人と話す機会はまったくない。抜け出そうと、もがこうとしてみても、世界が自分だけで閉じているため、まず何から始めたらいいのか、その指標が自分の中に見つからない。見つけることが、出来ない。

 山本は暗闇の中に、ずっと一人で取り残されている状態で生きるしかないし、実際そうやって今まで生きてきた。だから、突然その暗闇の中に人が現れても、俺が現れても、同じ人のように感じることが出来ない。

 山本にとって俺は、今までずっと見てきた、『暗闇』なのだ。だから、信じることが出来ない。

 今まで何も話さなかった『暗闇』が突然話しかけてきても、ただ恐怖しか感じないのだ。

 そうだ。山本は、『暗闇(俺)』が怖いのだ。

「そ、それに、その傷! お前、体中、き、傷だらけじゃないかっ!」

 恐怖の対象にのしかかられながら、山本は震えた声で俺の背中に視線を送る。

「その、その傷! 訓練中に出来たものなんじゃないの? と、特に背中の、火傷の跡! 血が出て、凄いことになってるっ!」

「火傷……?」

 山本に指摘され、そこで俺は爆破の影響で服が原形をとどめていないことに気が付いた。

「これは、訓練中に出来たものじゃ、ない……」

 俺は弱弱しく苦笑いしながら、山本に自分の背中の火傷について説明し始めた。

「俺が中学の時、いじめられていた時に、出来たものだ」

「……え?」

「未来の、お前なんだよ。俺は……」

 呆けた山本の顔を見ながら、俺はあの苦々しい記憶を呼び起こしていた。

「……俺は、元ニートなのさ」

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