暗躍開始
───大通りから戻ってきた駿は喫茶店の入り口に立つと「【隠蔽】」と言って、スキルを発動させた。
何故発動させたのかは皆にはトイレに行くと伝えているため大通りから喫茶店帰ってくることが不自然に見えるからだ。
それとこっそりと抜け出したためでもある。
忍び足で入った後、トイレの方向の通路から自然を装って優真達の元へと向かった。
「あ、お帰り」
「ただいま」
駿が戻ってきた時には、優真達はそれぞれ注文したジュースを半分以下に減らしていた。
会話も盛り上がっていたのか、皆の表情から楽しそうな雰囲気を感じられる。
「結構遅かったな」
「あぁ......ちょっとな。ほら、今日結構色んな物食べ歩いたから胃がびっくりしたんじゃないか?」
「確かにな。あ......そういえば俺も。トイレ行ってくるわ」
「行ってら」
「ふふ......なんかリレーみたいだね」
「近藤君が帰ってきた瞬間、浅野君がトイレに......確かにそうかも」
「バトンは無いけど便意がバトンみたいな物なんだろうか......」
「近藤君。下品だよ」
ぐふ......
と、好意を寄せている相手から下品と言われてしまった駿の胸に、多大なる傷が刻まれる。
「すみません伽凛さん。何でもしますから」
「速攻......」
腰を直ぐ様90度に折ったそんな駿に夕香は苦笑いする。
「い、いや。そこまでしなくても......ごめんね近藤君」
少し言い過ぎたかな......
と、また駿と同じように直ぐ様考えを改める伽凛に希が溜め息をついた。
「いや、全くの正論だから謝らなくて大丈夫だと思うよー」
「うんうん。希の言う通りだと思う」
三波もそれに同調する。
「......そ、そうなのかな?」
「伽凛さん。俺は大丈夫だぜ。逆にうれs......いや、今後一切しないようにするための咎めということにしてくれ。......こっちの身にもなるからさ」
と、咎められている駿も三波達に同調する始末に、伽凛は「......んん??」と一層悩ましげに首を傾げた。
「ただいまーっと......ん? なんの話してたんだ?」
そんな中、トイレに行っていた優真が席に戻ってきた。
「あ......浅野君おかえり。なんの話かというとね? 最初近藤君が───」
なんの話をしていたのか気になっていた優真に、夕香が一部始終を簡潔に話すと「あぁ......フッ」と、納得した後直ぐに駿に向かって何処か含みがあるように笑うと、優真は皆に笑ってしまった理由を話し始める。
「普段はこいつ頑固者で直ぐに謝ることなんて無かったんだが、峯崎の前になると直ぐに謝るとはな......まぁあれだな。やっぱり駿は峯崎のことが好───「優真君。ちょっとお話しましょうか? 話題はそうだなぁ......『余計なことを言うとどうなってしまうのか』にしようか? ン? ダイジョウブダイジョウブ。『オハナシ』スルダケダヨ......ネッ? ユウマクン?」......あ、いいえ結構です。あのっ......駿さん? その、怖いですよ? 笑顔なのは大変結構ですけど目が妙に煌めいているんですが......何でそんな満面な笑みで近づいてくるんですか? 来ないでくれますか......ちょ来ないで......く、来るなぁぁぁ!?」
が、理由を話す前に優真はいつの間にか黒いオーラを帯びていた駿に首根っこを掴まれて外に連れられていってしまった。
「「「「......」」」」
え......? と、すっかり取り残された伽凛達女性陣。
数秒ほど、駿達が出ていった入り口の方を見た後、四人は互いに顔を見合わせて「「「「......?」」」」と、また首を傾げたのだった。
───数分後
「ごめん皆。ちょっと用事があったから直ぐに終わらせてきた」
「あ、近藤君。用事? どんな用事だったの?」
「うん。今後の大事なお話を優真としてたんだ。なぁ優真」
「あ、いや......───」
「......あ”?」
「───はい! ありました! とても大事なお話だったです!」
「......? 浅野君なんか変だよ?」
「え? そうかな伽凛さん。元気だよな? 優真?」
「そ、それは......うーんと───」
「......チッ」
「───元気でございますっ! ええ! 元気とも! アイムベリーベリーファインっ!」
「「「......あぁ」」」
(((......なんかされたんだな)))
先程まで友人関係だった二人が外から帰ってきた瞬間にその関係に主従関係が確立されていることに、伽凛を除く夕香達三人は察する。
「え?......安藤さん何か分かったの?」
「......いや、まぁ色々とあるんだよ」
「......?」
良い意味で純粋な伽凛はそういう発想には至らないようだった。
「じゃあそろそろ散策に戻ろう。忘れ物ない?」
駿がそう声をかけると「全員持ってるよ」と、三波から返される。
「今は三時半だから後数ヶ所見て回って終わりかな?」
「そうだね。......にしても時間早く感じたよ。楽しかった」
「俺もだよ。伽凛さん」
「んじゃ早速行くか」
───そうして、喫茶店での休息から駿達は会計を済まし、再び散策に戻るのだった。
= = = = = =
路地裏に、三つの影が蠢く。
だがその内の二つの影は何処か動揺が伺えるほどに、不気味に揺れている。
「───おい、あれが本当に近藤なのかよ?」
と、ナイフを逆手に握りながら、喫茶店から再び五人の男女と共に出てきた青年を睨み付ける一人の男。
男の問いに、その隣で見ていた男が動揺する。
「......その筈だぞ」
「有り得ねぇ! 近藤はあんな見た目じゃなかっただろ! もっと豚みたいに太ってたじゃねえか!」
「いや......でも俺の『目』にはきっちりと近藤 駿と見えるんだけどよ......」
「あんだと? お前のスキルはすげえと思ってたけど今はっきりわかったぜ。ポンコツだったんだなぁ!」
「は? ホントだっての! 大体、スキルが嘘つくはずねえだろ。 俺の【心眼】で見た相手の情報は決して間違えたりしねえ!」
「じゃあなんだよあれは! よく見たら面影が少しあるがよ......一ヶ月でああなる訳ねぇだろ!?」
「いや俺もそう思いたいけどよ......でも【心眼】が......」
「───どうしたお前ら」
そんな言い争っている二人の所に低い声で割って入ってきたのは、大剣を肩に担ぎながら不敵に笑う長身の男だった。
「あ、龍二。いやな? こいつのスキルが使い物にならなくなったみたいでよ」
「は? お前しつけぇぞ。違ぇからな龍二。こいつがただ単に認めたくないだけだから」
「うっせぇよワカメ。髪長いからいい加減切れや。格好つけても不良(クズ)は不良(クズ)だぜ?」
「はっ......何処が不良(クズ)だよ。少なくともルックスならお前らに圧勝だわ」
「はい出た。ナルシスト田村(たむら) 卓(すぐる)様のルックス自慢。相変わらずキモいわ」
「いや、事実じゃん。何いってんだよ。というか相変わらずブスですね。高山(たかやま) 剛一(こういち)様?」
「そこら辺にしろ剛一。卓のスキルは本物だ。どんな結果であれ、それが事実だろ」
「ほら、龍二も言ってるんだ。いい加減にしろよ」
「......チっ......わぁーったよ。でもな龍二、想像できるか? あれが近藤なんだぜ?」
ため息と共に吐かれた剛一からの問いに、龍二は人混みの中に優真達と消えていく駿の背中を一瞥し、鼻で笑った。
「確かに想像できないな。あんな豚が今や卓を越えるイケメンになってやがる。だけど心はそう変わっちゃいないだろ。何たってあいつはこの世界に来ちまう前は俺達の命令には効かなかったが、いくら殴られ蹴られたって一言も俺達に楯突けられなかったからな」
「そういわれてみればな......確かに一回も俺達に口利かなかったな。まぁ流石にボコされてる時は声あげてたが」
「まぁ逆にそれがムカつくよな。だって悪口どころか何も言ってこねえもん」
「───そこでだ」
区切りをつけた龍二は普段の冷静沈着な表情を不気味な笑顔に変えたあと、考えた作戦を二人に伝えた。
その作戦を聞き終わった二人は、「これはすげえ面白そうだな」「やべえ。龍二最高じゃん」と、提案した龍二を口々に誉め称え、その表情には龍二と同様、不気味な笑顔に変貌させる。
「二人共。そっちは頼んだぞ」
「任せとけ」
「おう。龍二もな」
二人は返事をし終わったあと、手に持っていた黒いマントを被り、姿を消す。
「ふ......まさか冒険者から強奪すること以外にも『これ』に使用用途があったとはな......」
それを一瞥した龍二も二人も持っていた黒いマントを被り、姿が消えたか確認すると、こう呟くのだった。
「大切なものを傷つけられたら誰でも怒る......そうだろ? 近藤」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます