クラスメイトside・決意

 朝食をある三人の男子を除いた二十七人のクラスメイトが一度にここの食堂に集まり、豪華な朝食を食べている。


 談笑が絶えない賑やかな雰囲気の食堂に、朝食を食べ終わったのか三つの椅子を引いた音が響き渡る。 


「───ねぇ......あれ誰? 凄く格好良くない?」


 と、一人の女子が、その音に反応し、食堂を優真と伽凛と共に去ろうとしている一人の長身の青年を指差してそう言った。


「あ......そうかあんた昨日浅野君達のところに行ってなかったか......」


 そんな言葉を聞いた周囲の女子が少し驚いたような表情を浮かべた。


「え? 誰なの? 名前は? 王国の人? でもあの人日本人だよね? あんなイケメンこのクラスじゃ美作みまさか君と浅野君ぐらいしか居ないよね......」


 隣の女子もそれに反応し、あれは誰なのかを答えた。


「ふふん......聞いて驚け......なんと近藤君でした! すっごい変わったでしょ?」


「へぇ......近藤君か......ん!? え? う、嘘でしょ!? だって近藤君って......そんな......」


 そんな女子の言葉に周りで食べていたクラスメイト達が真っ先に肯定する。


「それが本当なんだよなぁ......くそ! 普通痩せたぐらいであんなになるか?」

「それな!......はぁ......俺なんかやる気なくしたぞ......」

「でもさ、確かに痩せる前だってそこら辺の男子よりかは良かったもんね~」

「そうそう! 素が良いって思ってたの! 私!」

「まさに人間で劇的ビフォーアフターしたよね~」

「俺も最初『え......こいつ誰?』って思ったけど、話し方や仕草で『あ、近藤だ』って思った」

「実際、屋敷で人助けもしてるわけだし......ポイント高いよな」

「ね! 格好良いな~近藤君......」


「......」


 昨日行ってなかった女子は、みんなの反応に絶句する。


「分かるよ~......絶句しちゃうよね? ほんとにその気持ち分かる!」


 食堂はしばらく駿の話題で持ちきりになった。


 駿の変わりように高揚する者。


 駿に恍惚とする者。


 駿の隠された素の良さに嫉妬する者様々だった。


 そんな騒ぎのなか、こんな声が上がった。


「じゃあさ......もう高山とか田村に従わなくても良くね?」


 そんな一人の男子の声に、一瞬で談笑が止んだ。


「それは............」


 そんな弱々しい声が響き、また静寂が訪れる。


「「「「「「「「............」」」」」」」」


 男子はそんな皆の反応を見て、「......そう、だよな」と肩を下ろした。


 しかし




───「大丈夫だよ」


 と、食堂隅から唐突に声が上がった。


 皆が一様に声元に注目する。


「夕香?」


 男子がそう声元の人物の名前を挙げた。


 そこに居たのは安藤あんどう 夕香ゆうかを筆頭に、たちばな 三波みなみ岩沢いわざわ のぞみの三人だった。 


 皆が注目する中、夕香は少し自信がなさげにこう呟く。


「私......さっき、実は近藤君にこれまでしてきたことを謝ったの......」


「「「「「「「「......!」」」」」」」」


 夕香の告白に、皆の顔が強ばり、次には罰が悪そうな顔をした。


 先程の夕香達のように、罪悪感が募ったのだろう。


 夕香もそれを体験してるからこそ、皆の表情で罪悪感が先行してることが分かった。


「その時......これまでやって来たことを今の皆のように後悔したの......情けないことに思わず泣いてしまったけど......謝った」


 苦笑しながら、それでも言葉を真剣なトーンで言い放つ。


「何を言って謝ったのかは覚えてないけど......その時の言葉はほとんどが言い訳だったと思う......傷つけられた方はそんな言い訳を傷つけた方から聞いたら普通怒るでしょ?」


 そう聞かれた皆は、反応はしなかったがそれぞれが顔を俯かせた。


「でも、近藤君は何故か礼を言ってくれたの。......何でだと思う?」


「「「「「「「「「......?」」」」」」」」」


 皆は困惑した表情をし、首を傾げる人も居た。


「近藤君はね? 言葉の差違はあるけど、簡潔に言うとするならば『あいつらと同じように盗難や暴力方ではなく、無視などをしてくれてありがとう』って......そう言ったの」


 その瞬間、食堂に居たほとんどの人が瞠目した。


「許してくれたのかは分からないけど......心の中ではどこか恨んでるかもしれないけど......それでも近藤君はそう言ってくれた。しかも街の散策まで一緒に行こうって誘ってくれたんだよ?」


「「「「「「「「「っ......!?」」」」」」」」」


脅されたとはいえ、駿を散々除け者にしてきた自分達になんでそんなに優しくできるんだ......?


 と、一人の男子が思ったように、他の皆も同じようなことを思った。


 そんな皆に対し、夕香は微笑みかける。


「......高山達に脅されてあんな態度をしたことを話したんだけど......それで心を打ち明けた私達は友達だって近藤君が言ってくれて......ホント優しすぎるよね」


 夕香がそう笑い、次に三波が続いた。


「......近藤君は自分のせいで私達に迷惑をかけたって思ってる。そして多分、高山達にすごい怒りを覚えてる。次高山達に会ったら......近藤君、絶対何かすると思う。これ以上皆を傷つけさせないために......」


 そしてこう宣言する。


「だから......近藤君は絶対にこれまでの分を高山達にぶつけてくれる」


 それまで黙っていた希も口を開いた。


「長い間高山君達に実権を握られてきたけど、この世界では違うことを近藤君が今日証明してくれると思うの......」


 夕香は希の言葉に頷き、皆にこう豪語する。


「近藤君はここに来る途中に、『自分が決着をつける』って私達に言った......だから私達は近藤君の因縁を晴らさせるために精一杯協力したいと思ってるんだ......罪滅ぼしもそうだけど、一番の理由はやっぱり友達として......自分に責任を感じてる近藤君にしっかりとその手で高山達を倒させてあげたい......勿論、本当は脅されたからってやってしまった私達が悪いけど......だけど、私がもし近藤君だったら絶対に同じように自分のせいにしちゃうと思う。だって自分が嫌がらせ受ける度に皆が脅されるから......」


 少し間を置き、夕香は決意をした表情を浮かべた。


「だからもう高山達に従わなくても大丈夫なんだよ。近藤君がきっと強くなった近藤君を見せてくれる。私達はそれを見届けて、皆も近藤君に謝ろ?」


「「「「「「「「「「「......」」」」」」」」」」」


 夕香の言葉に皆が息をのみ、これまで駿が一体どんな思いをしてきて、そして今日どんな思いで高山達に会うのかを考える。


 トラウマがあるはずだと。


 長年虐められてきた傷があるはずだと。


 皆がそれを思い、またそれを思ったことによってこれまで接してこなかった駿はどんな人物なのかを大体が予想する。


 優しい心の持ち主というより、どこか自分の揺るがない強い信念を持っているからこそ、優しくできる心の持ち主。


 それ故に、無茶をする性格だと。


 夕香達はまだ接してきて数分だが、長い間無視をしてきた自分達が今更謝ってきたとき、実際は本当に悔しさを噛みしめているのが夕香達には分かった。


 口元を見てみれば、うまく隠しているつもりだが歯をぎっしりと噛み締めて、心は許さなくても無茶をして、それでも夕香達を許した。


 友達として接することを選んだ駿は何にこの怒りをぶつけていいのか分からない状況だろうと夕香達はそれを一番わかっていた。


「もし、夕香達が言ってることが本当なら......私も近藤君に謝りたいわ」


 一人、また一人と夕香達の言葉に感化されていく。


「俺も」


「......あいつともっと話したいわ」


「私も......近藤君に」


 そんな一人一人の決意が、ぽつりぽつりと食堂に響き始め、やがてそれが束になったときには全員が賛同した。


 夕香達は皆のそんな反応を前に、頬を緩ませる。


「じゃあ早速、街に繰り出して見届けようぜ! そういえばダークナイトの力を見てなかったからな!」

「おうよ! 近藤は山にこもってたんだ。絶対強いと思うぞ!」

「だな!」

「近藤君が戦ってるところ見てみたいな~! 絶対かっこいいじゃん!」


 様々なところで、そんな会話が展開される中、夕香は呼び掛ける。


「これから浅野君と伽凛さん、近藤君達が城下街に散策しに行くらしいの。私達は誘われたけど

、皆も来るでしょ?」


 その問いに、皆は頷き椅子から腰を上げた。


「じゃあ早く行こ! 城門前で集合なんだけど待たせてるから!」


 ───皆はどこか清々しい表情で笑い、そして心の中では決意を固めながら城門前に急ぐのだった。

 

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