三章 城下街散策編

ボッチ、城下街散策の朝に

────朝。


 早く寝たためか、6時に目が覚めた。


「......くうっ!」


 と、体を充分縦に伸ばし、目を擦ったあとベットから身を起こした。


 今日は街で散策する約束を皆としているため、当然寝巻きでいくわけにはいかない。


 支度をするために着替えが入っている袋を開けて、ここ一ヶ月ですっかり着慣れている平民の服に似ている訓練服に着替えた。


 黒い半袖の服に、カーキ色の長ズボン。


 至って普通の服だが、アリシアから訓練時に勧められたこの服は伸縮性高く、動きやすい。


 まさに平民の皮を被ったGメンだ。


「うっわ、寝癖がひどいな......まるで浮浪者だ」


 鏡の前で確認すると、髪の毛が某格闘アニメのスーパーサ○ヤ人ばりの逆立ちをしていた。


 流石に髪色までは変わらないが、形はそのぐらいだった。


「元々ここに来たときももうすぐ切ろうかなって思ってたぐらいの長さだったけど一ヶ月後の今になっって本当に伸びたよな......」


 今や前髪で目を完全ではないが隠せるぐらいの長さだ。


髪の毛長くなると寝癖が酷くなるからなぁ......まじでめんどくせぇ......


 と、ため息をした駿は、そういえば昨日入浴していないことを思いだし、「一回風呂入ってくるか」と、浴場へ向かうのだった。





 ───30分後


「ひゅい~......スッキリ」


 ほかほかの体を城内を歩いて涼みながら、まだ濡れている髪の毛をごしごしと拭いて乾かしていると、目の前から三人がやって来るのを確認できた。


「───あ、もしかして近藤君?」


 通り抜こうとすると、突然話しかけられ駿は首を傾げる。


「え? なんで俺の名前を?」


 三人組は恐らくクラスメイトだった。


 しかし駿はクラスメイトなんて元々覚えてはいなかったため、ほぼ駿にとっては初対面の形になる。


 伽凛や優真、優菜ぐらいしかまとも面と向かって話したことがないのだ。


 駿の目の前で立ち止まり話しかけた三人組の中で一番小さい女子は、少し残念そうな表情をした。


「もしかして......覚えてないかな?」


「......ごめん。俺いつも皆に避けられてたし......話しかけても無視されるしでまともに話したのって伽凛さんか優真ぐらいしか当時居なかったんだ......だから名前を覚える必要が無いと思ってたから君達の名前を知らないんだ」


「「「......」」」


 駿のその言葉に、三人組の女子はバツが悪そうに目を逸らした。


「あ......」


やば......これ完全三人に対して当て付けみたいな言葉を言ってしまったな......


 駿もそんな三人にかける言葉が見つからず、おどおどと動揺していると、最初に話しかけてきた女子が切り出してきた。


「───その......今更言うのは本当に失礼かもしれないけど............本当にごめんなさいっ!」


「「......ごめんなさい」」


 女子がそう謝ると、両側に居た友達であろう女子も一緒に頭を下げた。


「え......?」


「しょうがなかったの......田村や高山に脅されて......それで怖くてっ......!───」


「お、おい。大丈夫か!?」


「安藤さん大丈夫!?」


 隣の女子から安藤と呼ばれ心配された女子は、急に涙を浮かばせて、過呼吸に似た症状に陥っていた。


 特徴的なサイドテールの髪型を細かく揺らし、体に至ってはこれでもかと言うほど大きく上下し、激しく動悸しているみたいだった。


「私は......私は何度もっ......無視するのをやめようとしたけどっ......その度に何度も脅されてっ......そ、れで───」


「安藤さんだっけ? いや、今はどうでもいい! 安藤さん落ち着いて!「───他の子だってっ......不本意で............それでっ......! 」───安藤さんッ!」


「───え”っ......?」


 駿はそう叫び、尚も動悸が激しくなっていく安藤の肩に力強く手を置いた。


そうか......高山と田村って言う糞野郎がけしかけて俺一人の状況を作り出してたってことか......でもそれはいい。それよりも俺のせいで安藤さんみたいな悪意がない人も脅されて、傷つけられて......不本意で加害者になってしまったっていう罪悪感を生ませてしまってるんだ......俺は無意識に周りの人を傷つけてたんだ......いじめられてるから弱いのを言い訳にして伽凛さんや優真にどこかすがってた気持ちがあった。そして、俺はすがったままいじめに向き合わなかったから......こうして......


 何か言いたげな女子二人に、視線で任せてくれないかと制し、女子二人は心配そうな面持ちだが静かに頷いた。


「安藤さん」


「......っ......」


 駿がそう呼ぶと、安藤は大粒な涙を目に潤ませながら顔を俯かせる


 それに構わず、駿は続けた。  


「確かに......安藤さんは世間一般的に見れば、加害者と同じことをしていたんだと思う。

俺も実際に、サイドテールの人もつまり安藤さんの事ね? その人だって、全員が加害者だと思ってた。無視や避けれるみたいな事を女子にはされた。

多分、安藤さんだって俺に対して同じことをしてたと思う。

でも安藤さん、俺はその事に感謝してるんだ」


「......えっ?」


「まぁ......全面的に感謝してるわけではないよ? 勿論、避けられるのは辛かったし、無視されたときは怒りを覚えた。だけど、たった一部だけ、感謝してるんだ。

それはあいつらのように暴力や直接的な嫌がらせではなく、無視や避けたりみたいなことを選んでくれた事に礼を言いたい。おかしな事を言うかもしれないけど、ここだけは感謝してる」


 安藤の目が、徐々に見開かれていく。


「避けられると無視されることと、筆箱を隠されたり教科書をズタズタにされたり椅子の足が一本壊されたり校舎裏に呼ばれて四人から暴行されること......どっちが悪質かは明らかに分かるはず。確かにどっちも悪いことだけど、それには天と地の差があるんだ。

経済面と心理面、身体面を傷つけられる直接的なものと、安藤さんのように心理面だけ傷つけられるものは比べ物にならない。

俺が学校に行き続けられたのも、伽凛さんや優真が話しかけてくれることもあるけど......直接的なことをしてくる人が少人数だったからなんだと思う。

ましてや今、安藤さんから脅されてやってたことを聞かされて、俺はそんなに生理的に無理じゃなかったっていう真実にたどり着けた......安藤さんやそこの二人は加害者の皮を被った被害者で......俺は皆を巻き込んで挙げ句のはてには安藤さんを傷つけた被害者の皮を被った加害者なんだ。

だから安藤さんは事実上悪くない。

俺が真剣に向き合わなかったからこんな事になった。だから俺が悪いんだ───」


 駿はそう言いきり、次には腰を静かに折った。


 安藤とその他二人がその駿の行動に驚愕する。


「───本当に......申し訳ありませんでした」


 駿は誠心誠意、謝るつもりだった。


 自分の不甲斐なさで招いたこの事態に、駿は自分で解決しなければならないと心から思った。


甘えてるからこんなことになったんだ......被害者にも罪はあることを今になって気づくなんて遅いよな......


「............」


 安藤は謝罪する駿を目にした瞬間、思わず泣き崩れた。


「うっ......あ”ぁ......」


 これまで積もってきた罪悪感からの開放。


 最初は加害者である自分が散々無視してきた被害者へ話しかけることさえ、足を震えるほど怖かった。


 しかしここで話しかけておかないと、もう一生話せない気がした。


 意を決して、話しかけた結果、どうやら自分達のことを知らないようだった。


 自分は被害者から名前を覚えてないことを知ると、どこか安心できた。


 しかし、その理由は単純で、自分がしでかしてきたことだと気付いたとき、直ぐに体が動き、ついには謝罪を口にしていた。


 密かに溜め込んできた心のうちを全て吐き出した。


 ほとんどが言い訳だったが、それでも被害者には何か言ってほしくて。


 被害者はそんな泣いて何言ってるか分からない様の自分の肩に手を置いて、真剣に考えを言ってくれた。


 それだけでも安藤は嬉しくて、聞いた内容さえうやむやになるほど嬉しくて。


 自分が悪いと思ってたのに、挙げ句のはてには謝罪をしてくれた被害者にすがる思いで、安藤は自分が悪くないと思いたくて、その場で泣き崩れた。


 心が洗われる気がした。

 

 被害者───いや、駿に泣いてしまったため全てではないが断片的に真相打ち明けられたことが何よりの罪悪感を消す特効薬として聞いてるようだった。


 他の二人も同じようで、一人は涙し、もう一人は駿にもう一度謝罪をした。


 腰を戻した駿は、泣き崩れている安藤にハンカチを渡して、こういった。


「それで拭いて、街を三人一緒に見て回らないか? 伽凛さんや優真、皆もいるし......」


「え......でも」


「俺に今話したのは、高山や田村に少なくとも勝てる力が安藤さん自身に身に付いたと見込んでのことだからだろ?

あっちの世界では女子は男子に力では抗えなかったけど、こっちの世界では少なくとも同等以上にはなれる......脅される心配もこっちの世界ではしなくていい。

俺も強くなったつもりだし、もしそいつらがきたとしたら優真だっているから返り討ちにできるし......何より、もう互いの気持ちを打ち明けた仲だから友達以外なんでもないだろ?」


 余程三人は脅されてきたのだろうか。


 余程三人はそれで負い目を感じていたのだろうか。


 駿の言葉で、三人ともどこか安心したような表情を浮かばせ、一筋の大きな滴がそれぞれの頬を流れた。


 その後、駿はそのまま数分間、三人が落ち着くまで傍に居たのだった。


▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣


 ところ変わって、城内の一室。


 その部屋には、三人の男子が集まっていた。


 手にはそれぞれ職業に合った得意武器が握られ、表情は不気味な笑みを浮かばせている。



「───なぁ......あいつ戻ってきたらしいぞ。どうする? 久し振りにしばくか?」


 金と黒の髪色を半分ずつ染め、180後半を誇る体格をしている高山(たかやま) 剛一(こういち)が、徐(おもむろ)に呟いた。


「あぁ......ダークナイトの恩恵を授かってルンルン気分の浮かれ野郎か......まぁそうだな。久し振りにあのデブから何もかも奪ってやろうぜ。どうせ弱いままなんだし」


 黒髪だが長髪。ギラギラと煌めくピアスが特徴的で甘いマスクをもっている田村(たむら) 卓(すぐる)もそれに同調する。


「ふっ......確か今日と明日は休日だったな。じゃああいつらはきっと街へ散策するはず......。どっかの路地裏に呼び込んでボコすか」

 

 刈り取った頭に『殴』と掘られている。これまた190を越える体格を誇る筋肉質な男、川本(かわもと) 龍二(りゅうじ)がそう不敵に笑う。


「じゃあ、行こうぜ。久し振りに『近藤(こんど)ーム』をこきつかってやらぁ......あ、それと安藤。あいつもそろそろ食べ頃だろ......」


「だな! てかそのあだ名まじでウケるw」


「ぷはっw......さっさと行こうぜ! 楽しみで仕方がねぇ!」


 とても下品な笑い声を上げながら、だらしなくポケットに手を突っ込み男達は一蹴りで扉を開けた。


 


 賑わっているだろう城下街へと、駿達が向かうだろう散策先へと三人組は足を進めた。 


▣ ▣ ▣ ▣ ▣ ▣


「もう大丈夫か?」 


 駿の言葉に、三人は微笑み頷いた。


「ありがとう近藤君......でもほんとに良いの? 私たちなんかが今更付いていったりして......」

 

「別に俺がリーダーって訳じゃないけど、自由行動ってされてるし気にしなくていいって! 人数が多い方が賑わうでしょ?」


 安藤がそう心配すると、駿は首を横に振って笑顔で否定する。


 それを見ていたその他二人の女子が口を開いた。


「確かにそうだけど......大人数過ぎるのもダメじゃない?」


「そうそう。私もそれ思ったんだけど......」


「ふむふむ......」


多分、大人数で移動することで迷惑がかかることを言ってるんだな......だったら


 駿は閃いたように目をぱっちりと開けて、考えた解決策を三人に提示する。


「グループに分ければいいんじゃないか? 人数が多くても均等にグループ分けして丁度良い人数で各別行動すれば、周囲には迷惑かけないと思うんだけど......どう?」


 三人はその提案に「「「あぁ~!」」」と、納得したように頷き、直ぐ様採用した。


「じゃあそういうことで、先ずは食堂にいこうぜ。お腹ペコペコだわ......」


「あ、ごめん......私たちのせいで時間を」


「そんなことない。元々ペコペコだったし、何より伽凛さんや優真以外の人と関係が構築できたことが何よりの収穫だから気にすんなよ。?......そういえば安藤さん以外の二人の名前知らなかったな」


 その問いかけに、おさげの女子が反応した。


「確かにそうだね。じゃあ私から......橘(たちばな) 三波(みなみ)だよ。えーっと一応召喚士やってます」


 ───三波は少し茶髪寄りの黒髪をしており、陸上部に入っていたため、身体能力が高い。空気を読むのが上手く、直ぐに話を上手い方向へと誘導できる芸当を持っている。容姿は上物。可愛いと世間一般では言われるほどだ。体型は女子の平均値。しかしくびれた腰や恐らくDカップは越えてるだろう双丘でさらに可憐となっている───


「橘さんね......で、そちらは?」


 駿はもう一人の女子に目配りした。

 

 その女子はセミロングの黒髪で、背は女子としては大きかった。


「私は岩沢(いわざわ) 希(のぞみ)。ジョブは槍術士だよ。実力はまだまだだけど......」


 ───希は漆黒の髪の毛をしており、サッカーのマネージャーをしていた。女子間での関係を広く持っており、清楚で真面目な性格と度々お茶目になるという希は異性からも人気が高い。容姿は三波のかわいいよりかは、どこか美しく感じる。体型は167と少し大きめだ。出るとこ出て、引っ込むところは引っ込んでるプロポーションの理由で噂ではあったが一時期グラビアをやってたという噂が駿のクラスで流れたことがある。信憑性は低いがそれほどの噂が流れるほどの容姿だということだ───


「岩沢さんね......じゃあ二人とも、これからよろしくな」


「「うん」」


 と、三波と希の二人と笑いあっていると、思い出したように駿が安藤に聞いた。


「あ、一応安藤さんの名前聞いていい?」


「え? 夕香(ゆうか)だけど......言ってなかったっけ?」


「うん」


「あれ?」


「もう、安藤さんったら」


「ふふっ......」


 三人は先程とは打って変わって、楽しそうに会話している。


 駿はそれを見て安心しながら、「早く行こうぜ」と、三人にそう促し、食堂へと向かった。


フルネームでこれから覚えないとなぁ......クラスメイトの名前


 多少面倒臭さはあるものの、やはり覚えておかなければ失礼だと駿は思い、出来るだけ早く覚えようと決心する。


 



 




 食堂に着くと、伽凛と優真が席を開けてくれていた。


「───あ! 近藤君! こっちこっち!」


 と、伽凛が満面な笑顔をこちらに向けながら手を振ってきた。



よし! 伽凛さんエネルギー(略して、K-energy )充填完了! あの笑顔はまさに蘇生魔法を越えるぐらいの効力を持ってるな......女神かよ! 最高かよ!


 どうやら優菜も伽凛の横に座っていたようで、賑やかになりそうだった。


「じゃあ安藤さん、橘さん、岩沢さんまた城門前で」


「うん......またね近藤君」

「また」

「じゃあね近藤君」


 三人はそれぞれの返事をしてきた後、仲良く空いてる席を探しに行った。


「ふぅ......」


いやぁ......なんか新鮮だな~! クラスメイトの女子と話すのは......ぶっちゃけ緊張してたわ......


 そう嬉しく思いながら、空いている優真の隣の席に座った。


 向かい側には伽凛が美味しそうにブドウに似た果実を口に含み、その隣には優菜が魔法使いの武器であり、魔法を指南してくれる魔導書を静かに読んでいた。


「お、果物をふんだんに使ってるな......美味そうだ」


 今日の朝食は果物の盛り合わせらしい。


 早速、リムの実というイチゴに似た果物を手に取り、頬張った。


「......っ! 美味い!」


 イチゴと同じような味がしたが、それよりももっと酸味が効いて、逆に甘味を引き出している。噛めば噛むほどに果肉が口のなかに残り、果物特有の丁度良い甘さが口の中を支配した。


 好みにもよるが、こちらの方が美味しく感じる人もきっといるだろう。



 駿はその後も、リムの実を重点的に食べて他の果実も勿論食べた。


 アルツープというブドウに似た赤色の果実は、やはり酸味が効いており、リムの実にはない違う甘味を引き出していた。


 他にもまだまだあるが、ほとんどがこのように酸味が効き、その果実の甘味を最大限まで引き出していた。


 まさに絶品。


 気付いたときにはもう食べ終わっていた。


「ほえ~......バリ美味かったわ」


 駿はその後、伽凛と優真で他愛のない話を三十分ほどした。


 




「じゃあそろそろ街を散策しますか」


「そうだね。皆集めてから出発しよっか」


「おうよ」


 駿、伽凛、優真の三人はそう確認した後、昨日話し合って決めた集合場所である城門前に急ぐことにしたのだった。


 

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