ボッチ、固有スキルについて考察する

駿は今、度肝を抜いている。


なん......だと


 理由は二つ、ここで始めて固有スキルである『状態異常倍加』が発動したことと、その効果についてだった。


まてよ......思い出せ......確か


 駿は黙考し、固有スキルの効果を思い出す。


───状態異常の効果が二倍される。

───自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される。


 こうだったはずだ......先ず、なんで自動回復の効果が二倍されるんだ? これに当てはまるところと言えばやはり【状態異常の効果が二倍される。】だろう。俺の認識では状態異常とはそもそも今の健康的な状態に異常が起こることを指すはずだ......毒状態や麻痺状態、催眠されてるのも入るな。それと鬱にさせるのもそうだった。ゲームではそれらが『状態異常』で一括りにされてた。そして『状態異常』とはどれだけ強い装備やレベルがどれだけ上がってもスキルを発動しない限り必ず不利益なことが起こるため、高ランカープレイヤー達でさえも対策をさせる面倒で凶悪なシステムだった。でも今の状態は明らかに......


「シュン......どうかしたの?」


 アリシアがいきなり何か黙考し始めた駿を心配しているようだった。


 勿論、伽凛やルリア達もだった。


「あ......いや。気になることがありまして......」


「気になること?」


「はい。この世界での状態異常とはどういった立ち位置なのか......です」


「状態異常の立ち位置......? それはやっぱり厄介なものでしょうね」


こっちの世界でも厄介なんだな......


「なるほど......では主に毒や麻痺と言ったところでしょうか?」


「そうよ。まだ結構あるけど、まぁその二つ以外にたくさん出てくるとすれば封印ぐらいかしら......」


やっぱり『状態異常』は自動回復・大とか自分にプラスのことじゃなく、毒とか麻痺とかとにかく自分にマイナスのことだよな......そもそもバッドスキルだよな? 『状態異常倍加』って。てか封印とは何だ?


「封印とはどういったものでしょう?」


 すると、隣に居たルリアが教えてくれた。


「封印とは、一時的にスキルを使用できなくなる状態異常です。主にダンジョンの深層や、高ランクの魔物から受けます。しかしその強力さ故に、封印属性の状態異常魔法を持っている高ランクの魔物でさえ制御が難しく、使える魔物が少ないです。なので封印を受けるのはダンジョンの深層ということになります。封印を受けることが多いというのは、恐らくコンドウ様達が冒険者としてそこに潜らなければならないことがこれから多くなってくる事を指してるのでしょう。アリシア様?」


 ルリアが笑顔でアリシアに目を向ける。


「はい。その見立てで間違えありません。───シュン、いい?」


 アリシアは肯定した後、駿の元に歩き、肩に手を乗せて厳格な表情を浮かべながら怒気を含ませた声質でこういった。


「......今回みたいな無茶をしたらこれから先......貴方は絶対に死ぬわよ? 私は貴方に死んでほしくない......そこにいる仲間のカリンさんだって......いえ、ここにいる全員が望んでないことなの。だから............」


 駿は瞠目したたまま、アリシアに釘付けになっている。


「だから......もう無茶しないで......」


「......!」 


 そう言われた瞬間、駿は肩を揺らす。


 アリシアから放たれた言葉には、不思議と何か特別なものを感じた。


 それは、普段は頼りになる姉みたいな振る舞いを見せるアリシアの始めての素だった。


優しいのは知ってたけど......ここまでとは......訓練の時なんであんなに厳しいのかよく分かった気がする......死なせないために、訓練を厳しくしてるんだ。優しさ故に......なんだな


 駿は自分がしでかしたことを反省する。


「はい......すみませんでした」


「謝ってほしくない、約束してほしいの......」


 顔を少し歪ませながらそう言われた。


 今にも泣きそうな顔だ。


 本格的に反省しようと、心のなかで決める。


「約束します。もう決してこのような無茶はしないと......必ず勝算がある時に行動します。それと......心配してくれてありがとうございます......師匠」


 駿は自分の肩に乗せているアリシアの手を優しく抑えながら、こう宣言する。


「俺なんか嬉しいです。今まで心配してくれた方は家族にも居なかったので......」


「え......?」


 アリシアは駿の言葉に怪訝な表情を浮かべた。


「それってどういうこと......?」


 しかし、駿は悲しそうに視線を反らして、次には笑顔を作った。


「なんでもないです......それよりも峯崎さん、メイドさん達が介抱してるあの人を治療してくれる? もう俺は大丈夫だから」


 と、駿が促した方向には血塗れで至るところに痣が出来ているビルの姿だった。


「私からもお父様をお願いします」


 ルリアも丁寧な立ち振舞いで頭を下げた。


「は、はい!」


 伽凛は急いで駿の側から立ち上がり、ビルのもとへと向かった。


「師匠、手を貸してくれませんか? まだ足取りが怪しいので......」


「大丈夫? ......はい、私の肩に腕を回して」


「私も手伝います」


 くらつく頭を苦笑気味で抑える駿にアリシアの他に、ジータも応じた。


「ありがとうございます......」


 両肩で支えられ、だいぶ姿勢が楽になった。


 そんなとき、ずっと見守ってきたエリンが口を開ける。


「すまないが......少しいいか? シュン殿」


「はい、なんでしょうか?」


「ここを襲撃した者達はどれくらいの強さだった......?」


「俺が戦ったのはそこで伸びている三人だけですけど......相当な手練れでした」


「そうか......」


「......? どうかしましたか?」


 少し黙考したエリンに、首を傾げる。


「いや、ありがとう。君のお陰でルリア殿とメイド達の大事なものを守れた。初戦闘だったようだが、本当によくやってくれた」


「......光栄です」


「ではジータ、先に私は部下を引き連れて城へ報告に戻る。無事シュン殿を連れて帰るように。それとアリシア......後で話があるんだが、時間空いてるか?」


 エリンは優しく微笑みながら、アリシアに時間の有無を聞いた。


「......空いてるけど」


「じゃあそちらの部屋にお邪魔することにするよ」


「分かったわ。その前に、ジータと一緒にシュンを部屋に送ったらね」


「あぁそうしてくれ。では私は失礼するよ」


 と、エリンは踵を返して部屋を後にする。


「───治療終わりました。ビルさん、立てますか?」


 ちょうど伽凛もビルの治療が完了したみたいだ。


 ビルはシュンと同じように、体がどこか重そうにしている。


「すまない......誰か手を貸してくれるか?」


 すると、数人のメイド達がビルの起立を支えた。


「それにしても......君の回復魔法は素晴らしいな。一瞬にしてあの数の痣が消え、痛みも何事がなかったように無くなっている......」


 おぼつかなく立ち上がりながら、そう口を開く。


「これは魔法ではなく、固有スキルなんです......」


 伽凛のその言葉に、ビルは瞠目する。


「なんと......それならこの効力にも納得できる。君は多分だが、これまでで一番の治癒力の持ち主になるだろう」


「ありがとうございます......」


 伽凛は誉められたことが満更でもないように、少し恥ずかしくしている。


「───お父様!」


「ルリア......無事だったか......」


 瞳を潤ませながらビルの側に駆け寄ったルリアは、満面の笑みを浮かばせた。


「はいっ......あの方が助けてくれたんです」


 ルリアは駿の方を指差して子供のように、はしゃいだ。


「寸前のところで来てくださって、男三人を相手に上手く立ち回っていましたの!」


 安心感があったのだろう。


 張り詰めた心が今崩れ去り、ビルの命への不安も消え、ルリアの心には一時の温かな光に包まれている。


 子供のようにはしゃぐのもそのせいであろう。


「そうか......」


 微笑ましくそれに頷き、ビルは駿を一瞥する。


「ふむ......貴殿は東から来た者か?」


「あ、えーと......」


なんて言おう......この場で言っても疑われるな......


 ルリアは困った表情を浮かべる駿を見て、思い出したようにビルに伝える。


「あっ、お父様。この方は一月前にこの国に現れた救世主達の一人、コンドウ・シュン様です」


「まさか......成程......それなら男三人を相手取ることに納得できる。あの男達は元Bランクの冒険者達だったようだが......その力量、相当なものだな。これからも貴殿のその力を正しいものに使っていってほしい......」


「は、はい......」


 少し気恥ずかしく感じ、癖で笑いそうになったがなんとかこらえて、小礼をした。


「それと、この度は娘を救ってくれて本当に感謝する。近いうちに何か褒美を贈ろう」


「ありがたく頂戴致します......」 


この場合は受けとる方が礼儀がなってるよな?


「ではそろそろ戻りましょう。メイドの皆さん、ビル公爵様とルリア様をお願いします。私達は城へと戻りますので、何かございましたら使いのものを走らせてください。直ぐに飛んでくるので」


 そうアリシアが仕切った後、ビルに解釈してから部屋を後にし、屋敷の玄関へと駿達は向かった。


 屋敷の玄関へと向かう途中、駿は考えふけっていた。


 考えていることは、確かに心配されている事もあったが、やはり一番の考え事は固有スキルの事だった。


 アリシアや皆を心配させ、魔物堕ちによって迷惑をかけてしまった反省はまた後でするとして、今は先程の事を覚えている内に未だ不明の固有スキルを解明していきたいと思っていた。


 両肩をジータとアリシアに支えられながら階段をゆっくりと降りていく。


 自分一人で歩けないほど力が入らない体に苛立ちを覚えながら、黙考する。


もし......もしもの話なんだが......『状態異常倍加』というのは、体に異常が起こった場合、その異常を倍加させる効果だったら......確かに、自動回復という現象は普通では絶対におかしい事、つまり異常だし、体の状態に異常が起こった事になるな......そういうことなら【状態異常の効果が二倍される。】という項目で自動回復が二倍されるのも納得できる......そして今さっき、俺のスキルには自動回復・大が追加されたことだが、【自分の体に何らかの異常が起きた場合、それが付加される。】の項目が関係してる事は明らかだ。自分に『何らか』の異常、この何らかという言葉はまさか自動回復とかの全てのバフのことも指してるのか......? そしたら......え? 実は『状態異常倍加』は強かった件......? 一度受けたバフはもう次には自由自在に使えるってことだよ? おいおいこれは異常だわ......しかし......この予想が当たってたら俺結構この世界で良い線行くんじゃね? とにかく、希望は見えてきた。帰ったらちょっと試すか


 そう不敵な笑顔を浮かべながら、今更ながらこの美少女二人に支えられている状況に気づく。


ジータさんだっけ......この世界には美少女しか居ないのかな? それにしても皆顔小さいよな~。峯崎さんも負けず劣らず小顔だし......


 左腕を支えてくれているため、直ぐ近くにあるジータの可憐な横顔を見ていたが、もう片方の腕を支えてくれているアリシアに視線を移す。


そういえば俺、こんな美少女と一緒に一ヶ月間ずっと訓練してたんだよな......強くなるのが楽しくて気にしなかったんだけど、師匠は気にしてたんだろうな......こんなパッとしない男と一ヶ月なんて苦痛にもほどがあるよな......


「シュン様」


 そんな事を思っていると、不意に左から透き通った声がかけられた。


「はい......何でしょうか?」


「そういえばシュン様の職業はダークナイトでしたね?」


「そうですよ」


「くれぐれも、闇に飲まれて魔物堕ちしないようにしてくださいね?」


「えっ」


「......? どうかしましたか?」


 少し胸が跳ねたが、怪しまれないように直ぐに返事をした。


「あっ......あー、はいっ! 気を付けますっ!」


「ふふっ......良い返事です。これからもよろしくお願いしますね?」


「はい、よろしくお願いします。え、えーとジータ副団長!」


 その言葉に、ジータは少し頬をぷくっと膨らませた。


「エリン団長とアリシア様と親しく話していた貴方はもう私の友人です。そして私の部下でもありません。よって堅苦しい話し方は無しにしましょう。ジータで良いのです」


え、えぇ......初対面の人にそれはちょっと難しいハードルなんだけど......てかくっそ恥ずかしい......


 苦笑した駿は、ぎこちなく言い直した。


「え、えっと分かりまし......分かった。こ、これからも......よ、よろしく頼む、ジータ」


 ジータはその言葉に嬉しそうに頬を染めて、笑顔で応えた。


「......うん! よろしくねコンドウ」


「───じゃあ私にももっと砕けた口調にしなさい」


 と、アリシアが唐突にそう切り出した。


「い、いえ。師匠は師匠なので、敬語の方が落ち着くんです。はい」


「とか言って、恥ずかしがってるのは知ってるんだから」


「決してそんなことは......」

 

「───近藤君、私も名前を言って欲しいな~......なんて」


 と、直ぐ後ろを歩いていた伽凛も切り出した。


「峯崎さんまで!?」


「いや、嫌なら......良いんだよ? べ、別に強制しているわわ訳ではなくてですね......」


いや、すっげぇ言わなくちゃいけないやつじゃんこれ......でもすっげぇいいずらいわ......


「え、えーとか、伽凛......さん?」


「は、はぃ......」


 そう呼んだ方も、呼ばれた方も、顔を真っ赤にしてとても初々しい雰囲気を醸し出している。


 他の二人もその様子に少し恥ずかしくなったのか頬を紅く染めた。



 

 


 そうして、ボルズ公の屋敷の一件はひとまず終息し、駿達はそんな風に馬に乗り込み帰路に着くのだった。


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