ボッチ、屋敷での戦いのその後に......

───思い返すと私はこの一ヶ月間、シュンの色々な面を見てきた。


 最初にシュンと出会ったあの時、正直いうと鬱陶しかった。

新兵が入ってきた直後で、色々と教えることがある時にこんな面倒事が舞い込んできたためだ。

しかも王の間に入った途端、特に転移者の男達から変な視線を向けられて、心も萎えていた。


 そんな時、王様から努力によって昇華するはずの魔法剣士の恩恵を最初から受けた前例がない人ではなく、人間や亜人がなれるはずがない、そして魔族随一の剣を持つ者がなれるはずのダークナイトが人間である転移者の中にいると言われ、萎えていた心が次には驚きに染まっていた。

抵抗感は確かにあった。でも同時に、興味が湧いたのも事実。

私は最終的には、教える人の人格を見て決めようと決心した。

ダークナイトは、上級職の中でも一番なれる確率が低いとされるパラディンの、またその上を行くホーリーナイトとの対の存在だ。

ダークナイト、ホーリーナイト共になれる確率はゼロに近い。そのため力は強力だ。


 ホーリーナイトは人族と亜人族の中でも、一番光の精霊と、神に愛された者がなれるといわれている。

ようは、ダークナイトは魔族のなかでの実力で恩恵を受けるか決め、ホーリーナイトは生まれつきの気まぐれで決められるということ。

話を戻すが、それほど確率が低いレアな職業につけるということは栄誉な事であり、大変喜ばしいことである。

その事から慢心していると思ったのだ。

確かに、胸を張って周りに言えるほどのものだ。そして言いたい気持ちも重々分かっている。

しかし、私はまだ実力がないときにそれを胸を張って言えるかというと怪しいところだ。というか心が許さないと思う。

話すのはあくまで教える身としてだ。

と、決心して私はダークナイトになった人に上から目線ではなく、慢心してないか探るために自然な挨拶を行った。


結果は、慢心してないように見えた。

コンドウ・シュンという男の子は、挨拶をした早々「よろしくお願いします! 師匠!」と、丁寧ではないが純粋な礼をしてくれた。

そして、少し心が痛む。こんな純粋な人に、私は探るような真似をしてしまった。


でも私は教える身として、まだ探らなければならなかった。


私は挨拶をした後も、数分間会話を行った。

必要最低限の関係を取っておかなければ、行動に支障が出てしまうというのも理由にあるが、やはりまだ教えるにたる人材かこの会話のなかで決めるのも理由だ───






───「シュンは何処から来たの?」


「俺は地球という所から来ました。もうほんとにこことは見る限りでいうと全く関係ない所ですね。それと俺の世界には魔法という概念は無いですから、魔法を撃ってみたい気持ちがあります」


「へぇ......魔法が無いんだ。じゃあ魔法を習ったら、それをなんのために使うつもりなの?」


「そうですねぇ......一番はやっぱり戦うためっていった方が良いと思いますけど、俺はあくまで自分を守るための手段と、人の助けるため手段として捉えます。なので俺はこの二つのもののために使おうかと思っています」


「ふむふむ......じゃあシュンはダークナイトという職業になれて嬉しいの?」


「嬉しくないと言ったら嘘になりますが、どちらかというと嬉しくないですね」


「......理由を聞かせてもらえる?」


「理由としては、ダークナイトは魔族だけがなれる職業と聞いたので近い将来、剣を探すための旅に出るときこの職業の事で周りにわだかまりが出来ると思うんです。魔族は人と亜人の敵。人と亜人は魔族の敵という概念が存在する以上、環境もダークナイトという職業だけで優遇されない場合が予想できるので事実、嬉しく思えません」


「なるほど......シュンはこれから先の事を考えてるのね?」


「といっても臆病なだけだと思いますよ?」


「臆病なのは必要なことだわ? 逆に臆病な心がなかったら危険な行いをして、危険が隣り合わせの旅に支障をきたす事になるの。だから、その臆病な心のままで居て頂戴」


「......はい。師匠」───






───と、私はシュンと話したときの事を覚えている。


 話してみても慢心もしてなかったし、逆に平然としてた。


 17歳でそんな平然としてたシュンに少し興味が湧いた。


 私はそんなシュンに、戦闘技術を教えても問題ない人格だと思った。


 ダークナイトという力を過信してしまって死んでしまったり、その強力な力を悪行に使ったりするのは騎士としても、技術や心得を教える師としても止めなければならないが、シュンはそんなことをしでかす人ではないと信用できた。


 だから私はシュンの師となると決心した───




 訓練して一週間目。


 シュンの性格を大体理解できた。


 よく言えば愚直。悪くいえば馬鹿真面目だ。


 興味があることには全力で奔走するのがシュンだった。


 訓練はキツくしたつもりだったが、必死に頑張ってた。


 私はそれを見て高揚した。


 久々に鍛えがいがある訓練生を見つけたためだったのかもしれない。


 


 訓練して二週間目。


 シュンは火属性魔法を高速詠唱出来た。


 闇属性魔法ももうすぐで出来るはずだ。


 成長は著しく、ステータスを見たときには物足りなかったが、皆との差を縮めるために訓練が終わった後にも剣術の型や、魔法の詠唱を復習しているみたいだった。


 私はその姿を微笑ましく思っていた。


 


 訓練して三週間目。


 まだ物足りないが、戦い方は出来てきた。


 剣術の型も、私からしてみればアースレル団長と同じくらいの精確さと綺麗な太刀筋だ。


 魔法も問題なく扱えており、詠唱失敗率もゼロに近い。


 私はそこでふと思った事をシュンに聞いた。


「どうしてシュンはこんなに厳しい訓練に音を上げないの? 別に私はいいわよ? 逆に音を上げてくれないと不安になってくるのよね......元気がないのかなって」


 これまでシュンは決して音を上げなかったのだ。


 私はひどい奴だと自覚している。

 訓練の時は必ずと言っても良いほど、気絶する人が現れる。

 それ即ち、私は自覚もなしに訓練生を追い込めさせてしまっているのだ。

 団長にも注意されたこともある。

 だから私は恐くて聞いてしまったのかもしれない。


 ───シュンは答えてくれた。


「確かに厳しいですけど......その分成長するので俺としては楽しいんですよね。訓練は厳しいですけれど師匠の根は優しいですし、たまに子供っぽくなるところが魅力的なので、毎日飽きません。俺はこの楽しい日常に音を上げるなんて出来ませんよ」───


 ───私はその時、思わず目を見開いた。


 自分でも分かるぐらい精一杯に。


 そして同時に、何故だかシュンの顔を見てると胸が跳ねてしまう。


 誰でも、私と話してる時は何故だか怖がられ、思うように話が進まず、気持ちよく話ができなかった苦い思い出があった。


 そういえばここ最近は団長や他の部隊長達以外とまともに話してなかった。


 そして、笑顔を浮かばせられる話をするのはシュンで久し振りだった。


 私はシュンみたいに、素で話し合える人に出会えたことが嬉しく、また恍惚もしていたと思う。


 密かに思い描いていたこの風景を。 


 


 訓練して四週間目。


 今日は久々に王都に向かう日だ。


 シュンは仲間と出会えることが嬉しいのか朝起きるのが早く、少し苦笑いを浮かべていた。


 最後の一週間はさらに訓練を厳しくし、基本から次の一ヶ月間の実戦訓練で習うはずの技の応用などを教えた。


 シュンは黙々と訓練をこなし、汗だくになりながらも私と話すときには笑顔を浮かべてくれた。


 夜になると、洞窟で談笑しながら夕食を食べて、いつものように隣同士で寝る。朝になったら笑顔で挨拶を交わし、眠い目を擦りながら朝食を食べて、私とシュンは同じように長剣を片手に洞窟を出て訓練をする。


 そんな一ヶ月間の訓練期間が終わってしまったことが結構寂しく思ったが、同時に達成感があった。


 教え子がここまで成長すると、私も鼻が高いのだ。


 それにここ一週間、私の心が変になりつつあるのだ。


 シュンを十秒以上見ることができず、目を逸らしてしまい、同時に体が熱くなってしまうのだ。


 病気でも何でもないことは分かってるが、これは流石におかしい。


 自分でも自覚はしているのだと思う。


 





 きっと私のこの変な気持ちの正体は───



▷ ▷ ▷ ▷ ▷ ▷


 

「あと三十秒でボルズ公の屋敷に到着します! ユウマ様、準備を!」


「分かりましたっ! 分かりましたから少し速度をおとし───どへぇっ!?」


「ちゃんと掴まっといてくださいユウマ様!」


 優真、伽凛を含めたボルズ公の屋敷へと救援に向かう王国騎馬軍第一騎馬団は、もう目の前に目的地を見据えていた。


 第一騎馬団副団長であるジータ・リムスは依然としてしっかりと自分に掴まらない後ろで乗馬している優真に、不満を漏らした。


「団長、あれは......」


「あぁ、倒れているのは賊だろうな」


 伽凛が乗馬する第一騎馬団団長のボルズ公の屋敷をエリン・ジブールの馬は、猛スピードで門を突破し、一気に前庭まで加速する。


 その速さで一息の間に前庭まで着き、馬上で伽凛は少し苦しそうな顔を浮かばせ、エリンは対照的に無表情に近い冷静な顔を浮かばせる。


「多分、アリシアがやったのだろうな」


「アリシアさんが?」


「ここら辺に一発、中級魔法を放った痕跡が残っている。アリシアの魔攻力であれば、中級魔法で一帯を本来の上級魔法の威力で巻き込めるほど造作もない。上級魔法の種類にもよるが、アリシアならば屋敷とこの敷地ごと吹っ飛ばす事も出来るだろう」


「......そんなに」


 途中から重々しく伝えられたアリシアの魔法の力についての話は、伽凛の胸の中に響き渡る。


「───エリン団長。何かございましたか?」


 と、唐突に後ろから投げ掛けられた。


「ジータか。......? ユウマ殿、どうかしたのか?」


 エリンは振り返った瞬間、ジータに寄りかかって伸びている優真の姿が気になった。


「実はユウマ様はこの馬が出す速度に終始驚かれたようで、向かっている途中に何回も後ろで速度を落とすように言われたのですがそんな時間はなく、強行させたらこんな風になってしまいまして......」


「うーむ......起こすのも悪い気がするな......では他の騎士団員一人にユウマ殿を任せて、その他は屋敷に突入するとしよう。私と剣士の者は前衛を担当し、ジータと槍兵の者は中衛を。カリン殿と魔法師の者は後衛を担当してもらう。突入は120秒後、その待機時間にそれぞれの配置につき、準備をしてくれ。では開始」


 団長であるエリンの命令に、全員が言われた通りに行動する。


 伽凛も最初は分からなかったが、近くの団員に教えてもらい、即座に後衛の一団に加わった。


 緊張した面持ちで、屋敷のその豪華な彫刻が刻まれた扉を見つめる。


「近藤君......」


 ───そして、120秒後


「突入!」


 扉を強引に開け、そこから屋敷に続々と進入する。


「これは......」


 進入した瞬間、騎士団員の一人が驚嘆する。


「まさか......これを全部」


「そうみたいだな」


 目の前に広がるのは、二十にも及ぶ屈強な男達が無様にも呻き声を上げながら倒れている光景だった。


 エリンは別段気にする様子もなく上へと繋がる階段に進む。


「全員、武器を仕舞っていい。もう屋敷内はアリシアが制圧したみたいだ。戦闘している音も聞こえないからな」


 階段を上がりながら、呆然とする全員は言われるがままに武器を仕舞い、エリンの後ろに付いていった。


「近藤君は大丈夫なんでしょうか?」


 伽凛は戦闘が終息している状況に一息着き、前を栗色の長髪を揺らしながら歩くエリンに質問する。


「大丈夫だろう。しかし......この先の食賓室からなにか禍々しい空気を感じる。魔物にしては魔力が小さいな......とりあえず行ってみないと分からないだろう」


「ふぅ......」


 伽凛はここで初めて本当に一息を着けた気がした。


「まるで何か探すようにしらみ潰しに賊を無力化しているな」


 エリンは扉の開いた間から妙に部屋のクローゼット等が乱暴に開かれているのを一瞥してふと思ったことを口に出した。


「この人たちがやったんじゃないですか?」


 エリンの視線の先を辿り、言ったことを照らし合わせて意味が分かった伽凛がエリンに返答する。


「いや、元々この賊の装備を見ると万全な状態でここに来たらしい。それなりに高価な装備を全員が揃えている。ということは金銭的には困ってなく、他の理由で襲撃をした可能性が高い」


「なるほど......」


 エリンの説明を聞くと、確かに頷ける。


 そんな会話をしていると、懸念があった食賓室の前に到着する。


「誰か居るか? 私は第一騎馬団団長、エリン・ジブールだ!」


 扉をノックし、エリンは声を張り上げた。


「───はい! 居ます! 救援に来たんですね!」


 すると、女声が扉の向こうから返ってきた。


「失礼する。襲撃との連絡が入りここに───......!」


 エリンは扉を開け、挨拶を交わそうとした瞬間、思わず瞠目する。


 伽凛も、続々と入ってくる団員達も全員が驚愕する。


 視線の先にあるのは───


「............」


 ───アリシアが大事そうに気を失った駿の顔を静かに涙目で抱き上げている、高名で誇り高いと知られる王国最強の女性騎士のそんな弱々しい姿だった。


「アリシア......」


 エリンはその姿に呆然とした声でその名を呟く。


「───エリン様。私はルリア・シリウス・ボルズと申します。この度はありがとうございました」


「......あ、いや。あなたのことは存じ上げていますルリア殿。どこか怪我はしてませんか?」


「いえ、私は問題ありません。それより、コンドウ様を診てください。彼が一番の負傷者だと思いますので」


「分かりました。カリン殿、頼めるか?」


「勿論です!」


 伽凛は駿とアリシアの元に駆け寄り、アリシアに声をかけた。


「アリシアさん、近藤君に異常がないか診るので離れていただけますか?」


「..................うん、ごめんなさい。邪魔して」


「大丈夫です」


 アリシアは涙を拭い、その場を立ち上がった。


 それを見計らい、伽凛は杖を倒れている駿に向かって突き出した。


「【女神よ───この者を侵す最たる理由をどうかその慈愛の光で包み込みたまえ───女神ヒーリング治癒ゴッドネス】」


 すると優しい光が駿の体を数秒間包み込み、やがて光が消えると同時に駿が目をゆっくりと開いた。


「シュンっ!」「近藤君!」「コンドウ様!」


 それぞれから歓喜する。


「......あれ?」


 駿はぼやける視界の中で、そう呆けた顔をした。


「ここは......ってえぇ!? どうして峯崎さんがここに!?」


 間近まで伽凛の顔が涙目で迫られていたため、駿は顔を一瞬で赤面させる。


「あっ! ごめんなさいっ......」


いえ、嬉しいです。寝起きには勿体無いくらいだな......


 伽凛は即座に駿と同じように赤面させ、離れさせる。


「ん......? 何だか体の表面が光に包まれているような......」


「あ、それはね? 私の固有スキルの【女神の治癒】の効果の一つで、自動回復・大っていうのだけど......説明が難しくて」


あぁ......ゲームでよく使ってたわ。やっぱりゲームに無頓着な峯崎さんには難しいよな


「あぁ、大丈夫。大体分かった。ようは回復魔法を使わなくても自動的に回復するってやつでしょ?」


「そう! そうなんだけど......ごめんなさい......勉強不足な私で......」


「峯崎さんは勉強熱心だよ。あと一ヶ月の実践訓練があるんだし、峯崎さんならその一ヶ月さえあればこの世界のこととか大体理解できると思う」


 そういって微笑むと、伽凛は赤くなった顔を反らした。


「近藤君がいうなら......そうなのかもしれないね」


 しかし、伽凛はそういうとまた顔を戻し、笑いかけた。


「俺も頑張らないとね......」


峯崎さんに出来るだけ知識で食らい付いていかないと不味いな~


 そう苦笑していると突然───



────固有スキル【状態異常倍加】の発動を確認。自動回復・大を二倍にし、自動回復・大を付加します。


「えっ......」


「......近藤君?」


 唐突に頭の中で響くその声に、思わず心臓が跳ねた。


────スキルを習得しました。自動回復・大 付加エンチャント


どういうことだ!?

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