ボッチ、歓迎会に行く・前半

 「はぇ~......凄いな」


 駿は部屋で少し休んだ後、歓迎会をやる庭園に来ていて、目の前に広がるその庭園の光景に、思わず感嘆していた。


 五十メートル程にもなる白い布が掛けられた六個の長机の一つ一つの席に、何とも豪華な料理が綺麗に並んでいたのだ。


 やはり、王宮総出は伊達じゃないことがよくわかった。

 

聞いた話によると、今日の夜は国中から貴族や士官の家族がくるらしいからな......この長すぎる机の数は今は六個となっているが、足りなければあるだけ出すと言ってるのだから、王様の経済力には呆れたもんだ......


 しかし、実際はこの国の税金は他国よりも少ない方だと聞いた駿は、「大変なんですね......」と、国民に同情した。


 まるで他人事のようだが、実際他人だし、そもそも元々この世界にいなかったから、赤の他人どころか居たことすら分からないために、どうしても他人事にする他なかった。


「にしても広いし......人工で作った庭園にしては綺麗すぎだな。でも、こんな鑑賞用や会場のところでお金をかけてしまうはどうかと......───いや、この先言って聞かれてたら多分後ろからブスって刺されてア"ァーしちゃうからここら辺でやめとこう......」


 会場となるこの庭園の辺りは松明が綺麗に並べて置いてくれたので、駿の目の前に広がる庭園の景色を全く損なうことなく、むしろ幻想的に思わせられる。


 駿はそんな庭園に見とれていたが、また国民の税金のことを思い出した瞬間、その庭園の作成費用と、維持費が気になった。


ざっと考えて...........一千万は優に越してるはず......維持費は三百万ぐらい?


 駿はそう考えた後、「こいつはひでぇ」と、苦笑しながら心のなかで、国民に敬礼を送った。


「そういえば......皆は来てるかな?」


 駿は徐々に会場に集まりつつある、貴族らしい人達の人混みを見ながら、ふと思った。


まぁ王様は無理しなくてもいい、とか言ってたしな。皆は突然のことで疲れてるとも思うし......俺も疲れてるけど、ほら! 今のうちに知らない料理の選別とか、異世界の人とのコミュニケーションを取るとか大事だから! 決して、俺は一人が寂しいからきたわけじゃない。決してだ......うん。決してだからね? 本当のことだよ? あぁん? いやだから..................それ以上聞くんじゃねえええっ! 


 誰からも言われてるわけでもないのに、心の中で叫んでいると不意に目端に、見覚えがあるものが見えた。


「......? あれは......」


赤い髪の毛......もしかして師匠か?


 駿は、特徴のある赤髮を人混みの中でサラサラとこちらに向かって揺れているのを確認したとき、すぐにアリシアだと特定できた。


 人混みの中、駿は人混みをかき分けて向かってくるアリシアを迎いに行く。人混みは以外とぶつかったり、アリシアの場合は大丈夫そうだが、スリも有り得そうなので、一応......と思った結果である。


 当然、駿もここは注意するところなのだが、今はまだこの世界に来て三時間と短いので一文無しだったために、心配することがない。


「師匠! こっちです!」


「あ、シュン? どこ!」


 駿は幸い背は178センチあったので、アリシアを見失うことは無かったのだが、背が推定165センチ(駿の分析)のアリシアは目の前に人の背中ばかりなので駿を見つけることは困難だった。


 アリシアはそんな声を叫びながら、ピョンピョンとその場でジャンプして、駿を探しているようだった。


おお......師匠可愛ええのう......


 しかし駿はわざとらしく、少し他人の背中にかくれるように顔を低くしながら、アリシアの必死に探している姿をニヤニヤしながら見守っている。


「どこ行ったのよ......」


 駿はしめしめ、と呟くアリシアの向いている方向とは逆の方向へ密かに人混みに隠れながら回り込んだ。


「シュンー! どこー!」


師匠......背中、ガラ空きですぜ? これは師事当日で師匠の後ろを取れるんじゃね~?────よし......後ろに回り込んだ


 と、駿は依然としてニヤけながら、アリシアの後ろ二メートルの位置についたその時



────スキル【隠蔽】を習得しました


えっ!?......いきなり声が......! しかも耳元でなく直接頭の中で響いたような!?


 駿の頭の中に、見覚えのない声が響いた。


だ、だれだ......


 駿は思わず自分の頭を叩いた。


え、ええ!? 怖っ......!!


 その時、駿は本当に誰かいるのかと鳥肌が立つほど怖がっていたが、ええい! 今は師匠の後ろをとらなけばならないという使命があるのだ! 怖がるんじゃねぇ! いくぜ......!と、直ぐに心を強引に変えて、依然として背中を見せている無防備なアリシアに向かって飛び出す。




行けるッ......!


 駿はあと一メートルと差し掛かったとき────






「───惜しいわ」


 と、アリシアはいきなりそう呟いた。


「へ......?」


 駿はその言葉に一瞬呆けた声を出した瞬間


 アリシアの背中に手が届きそうになったその直後に、アリシアはその場でクルリと回転し、飛び出した勢いのままの駿を避けて、首根っこを掴み、次には一声──-


「───はい捕まえた」


 と、あっけらかんとした声でそう言った。


「お......? あっ............」


 駿は一瞬のことで直ぐには理解できなかったが、徐々に理解できた。


「よ、よっす! 師匠! いやぁ......師匠に声を掛けようと思ったら、偶然! 師匠が背中を見せていたので、たまたま! 肩を叩いた方がいいかなって思ったんですよね~......」


 その駿の言葉に、依然として首根っこを掴んでいるアリシアはまじまじと見つめながら相槌をうった。


「ふーん?」


「な、何でしょうか......」 



 その言葉の後、駿とアリシアは見つめあった。


「......」


「......!」


 アリシアはまじまじとした表情を変えないまま、駿の顔を見つめ、駿は少し目を反らし気味ながらもところどころだが、アリシアのその整った顔立ちを見つめる。


「っ......!?」


「......?」


 しかし駿を見ていたアリシアの顔が、徐々に赤くなっていき、やがてさっきの逆のような感じなった。変わったところと言えば、駿の表情がアリシアのようなまじまじとした表情ではなく、困惑した表情で首を傾げているところだ。


「あの......どうしたんです......?」


いや何で俺の顔みて頬が赤くなっていくのか割りとガチで聞きたいんだが......


「い、いや......! 何でもないわっ、何でもないのよ......? うん!」


 更に紅潮した顔になりながらでブンブンブン、と手を思いきり振るアリシア。


いや、絶対あるだろっ! 何? 背が高いわりに俺の顔が子供っぽいことか!? それ結構気にしてるんだぞ! 俺だってな? 背が高いやつが子供っぽい顔の奴がいたら「え......」ってなることぐらいわかってるんだぞ! それを師匠は顔を赤くするぐらいその事が自分のように恥ずかしがってんのか!? いや......でも......顔が赤い師匠、今更だがめっさ可愛いかったから、俺は許す!


「そうですか......」


「そそそ、それより......! あなたを探してたの」


「俺をですか? 何か用事でも?」


 アリシアは、ふぅ......、と一旦落ち着いてから、詳細を話した。

 

「いや......まぁ用事でもなんでもなくて、ただ貴方以外の仲間全員があっちの方に集まってるから、一人でなぜか離れていた貴方を探してたってだけだわ」


 と、アリシアは少し無愛想に答えた。


「え......そうなんですか。では、折角探しに来てもらったので断るのは悪いですし、案内宜しくお願いします。師匠」


「ふ、ふんっ......ほらこっちよ」

 

「はい」


 駿はプイと俯きながらも、アリシアが案内してくれることに、素直になればいいのにな、と苦笑しながらも、嬉しく思った。



「なに笑ってるのよ......?」


「いやいや~何でもないですよ~?」


「やっぱり何かあるでしょっ!」


「え~?」


 と、そんな似たような会話を、二人で並んで歩きながらする、駿とアリシアだった。



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 駿がこっちに向かってる間、クラスは一番端の席で豪華な夕飯を食べていた。


「うお......うめえ!」

「やばっ......とろけそう」

「バリ美味いやん」

「この肉......牛肉よりもジューシーだな!」

「美味しい~♪ つい食べ過ぎちゃうね~?」

「このサラダ食べやすいね」

「酒のみてぇ気分だぜ」

「旨っ!」 


など、目の前に並ぶ料理を絶賛する声が上がる中、伽凛は一人寂しそうに食べていた。


「......」


......近藤君どこに居るのかな


「伽凛、一緒に食べよっ?」


「......? あ、優菜。どうぞ」


 伽凛は隣の空席の椅子を引いてあげた。


 空席に座ったのは、伽凛の親友の朝倉(あさくら) 優菜(ゆうな)だった。


「わぁ......美味しそうだね!」


「......そうだね」


 隣から優菜が楽しそうに聞いてくる中、伽凛はどうしても気が乗らず、少し暗い返事をした。


「ん? 伽凛......どうかしたの?」


「い、いや。何でもないよっ? ただ少し食欲がないというか......」


「ふーん......大丈夫なの?」


「う、うん! 大丈夫!」


「そうなのか......」


 優菜は納得した表情をした後、少し不敵に笑った。


「そういえば近藤君見当たらないね?」


「っ......!? そ、そうだね! どこ行ったのかな......」


「......気になる?」 


「......ききき、気になるって言われれば気になるかな? どうしてみんなが居るのに近藤君だけが居ないのかなって......」


 ふ~ん?、とその言葉に対して怪しむように相槌を打つ優菜。


「で、どうするの? 伽凛は」


「え?」


「伽凛は近藤君の事......好きなんでしょ?」


「───え、ええぇっ!?」


 伽凛は思わず出した声が皆の耳に届く。


「「「......?」」」


 皆は怪訝な表情で伽凛に注目する。


「あっ......ご、ごめんね皆! こっちの話だから! 気にしないでいいから!」


 そんな伽凛の言葉で、皆は向けていた顔をまた友達や料理の方に向けた。


ふ、ふぅ...... 

 

 伽凛は皆の方に向けていた顔を勢いよく優菜に向けて、ぽこぽこと両手で拳を作って優菜の肩を叩きまくった。


「もうっ! 優菜!」


「あはは~ごめんごめん! 伽凛があからさますぎてついからかいたくなって!」


 テヘペロ、と優菜は伽凛に照れた顔を見せた。


「何照れてるの! というかいつからその事を知ってたの!」


「えっとね~中学二年生からかな~?」


 その言葉にウソっ!?、と伽凛は驚愕した。


私が近藤君に興味を持ち始めたときじゃないの! 何で優菜が......


「だってずっとではないけど伽凛っていつもチラチラ近藤君事見てたでしょ? そこから高校に入ってからは目で追うようになってたし......伽凛のそういう遠慮しないところ、私は好きだよ?」


 と、優菜は悪びれた顔でグッドサインを送ってくる。


「う、ううううるさい! 優菜はもっと遠慮してほしいよ! もぅ~......」


 伽凛の顔はもう成熟したリンゴのように赤くなっていた。

 そんな伽凛を優菜は、まぁまぁ、と慰めたが、誰のせいだと思ってるのっ!、と逆に怒られた。


「で......伽凛はどうしたいの?」


「......」


「近藤君と付き合いたいんでしょ?」


「......たい」


 伽凛は依然として赤くなりながら呟く。


「......告白したい」


「そのためにはどうするの?」


「ちゃんと......好きな気持ちが......伝わるように......」


「できる?」


 優菜は少し茶色がかった髪をすくいながら、優しく微笑んだ。


「────できる......やってみるよ」


「別に今すぐじゃなくても良いから、ゆっくりと近藤君を落とそうね? 私はいつでも相談に乗るから」


「うん......ありがとう優菜」


 互いに笑いあって、互いの関係を確かめる。


 伽凛は優菜とそんなことができた気がした。


「────お、駿じゃん! 今までどこに行ってたこんちくしょう!」


「伽凛、来たみたいだね」


「......うん」


 と、優真の声が響き渡る。


「あぁ......ちょっとぶらついてた。あっちの景色綺麗だったけど、後で行ってみるか?」


「お、じゃあ後で行こうな。とりあえず、お前は食っとけ。腹へってんだろ?」


「おう、めっさ空いとる」


「じゃあ......あそこだな、峯崎さんの前の席が空いてるぞ」


「うん、ありがとな」


 伽凛は会話の内容をばっちり聞こえてたため、少し背筋を伸ばして駿を待った。


そして───




「おそかったね近藤君!」


「こんばんわ峯崎さん。ちょっとぶらついてた。......どう、料理は美味しい?」


「美味しかったよ。近藤君も早く食べなよ」


「うん────え、美味いっ!」


「ふふっ......でしょ?」



 

 ────歓迎会はまだまだ続く


 

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