ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手
水源+α
一章 クラス召喚編
プロローグ
「───うん? なんだこれ......」
教室の時計の針が8時19分を指している。
あと1分で朝活が始まろうとしていて、全員がチャイム前席を心掛け、待機しているときに、それは突然起こった。
床が光ってる......うおっ! 眩しい......!?
窓際の前から二席目に座る男子、近藤(こんどう) 駿(しゅん)。
少し寝癖で立っている黒髪に、童顔が特徴的で、ぽっちゃりとした体型だが179センチと身長は高い方。
成績は中の上くらい。しかし、人間関係は限りなく少なく、最近でいうキャラとしては、中の下かそれ以下である。
しかし、普段は話す相手が居ないだけで、喋るのが苦手なコミュ障ではなく、話しかけられればそこら辺の男子みたく喋ることが可能だ。
だが、とある理由から皆に避けられ、数人から容赦ない暴力を振られるなどの虐めをされていることを省けば、ごく普通な高校生だ。
その突然起きた出来事にいち早く気づいたのが駿ただ一人だったが、既に床が一層輝きを増して、眩い光に思わず目を瞑ってしまう。
他の皆も、最初の微弱な輝きを放っていた床に気付かなかったが、先程とは比べ物にならないほどに一瞬で輝きを増した瞬間に、やっとこの教室内の異変に気づきはじめた。
「何よこれ!」
「み......見えねぇ!」
「眩しすぎる......!?」
全員が目に襲いかかる光を遮ろうと腕で目を隠したため、視界を失い、外に出ようにも正確な扉の位置が掴めず、教室から出たくても出られない歯がゆい状況になってしまう。
誰もが混乱し、誰もが困惑し、そして誰もが危機感を感じたのか、全員が教室のドアへと向かい始める。
しかし、その行動虚しく。
───その数秒後、教室から光が溢れだした瞬間、あれほど騒がしかった教室に突然の静寂が訪れたのだった。
= = = = = =
毎日続く平和な学校の日常は、すぐ通りすぎて行くものだ。
だが人生にはアクシデントがつきもので、例えば課題の出し忘れや、再提出、委員会の退屈な仕事、厳しい部活の顧問に会わなければならないという事態が起こってしまい、そこからの日常というのは本当に長く感じてしまうだろう。
例としては俺。詳しく言えば虐めだろう。
途方もない痛みに耐えながら、無言を突き通すのは本当に辛い。
面倒くさいし、さっさと妹達や母さんが待っている家へ帰りたいというのに、高山達三人は一向に殴って気が済むまで返してくれやしない。
現に教室の後ろの席で、ニヤニヤと高山(たかやま)、田村(たむら)、中学校から一緒の学年だった龍二(りゅうじ)達三人が俺を見て笑っている。
それぐらい俺をサンドバックに出来る放課後を待ち望んでいるのだろう。
その為、俺にとって地獄の放課後までの朝と昼は天国と言えるのだ。
しかし、毎日の朝の平和な日常でさえ、長く感じてしまう事態が毎日のように起こってしまうのだ。
それはいつものように朝、襲ってくる眠気に負けて、教室の自分の机に頭を突っ伏していると───
「近藤君......おはよう。今日も相変わらずだね? ふふっ......」
と、駿の机の横で美しい少女が優しく微笑みかけた。
「..................ぅあ? あ......ああ! おはよう峯崎さんっ! ごめんいつも寝てて......」
「別に謝ることじゃないよ? 近藤君はそのままいいと思う......それじゃ、私、友達のところにいくから、またね?」
「あ、うん......!」
ふ、ふぅ......
───そう
誰もが憧れ、文武両道、容姿端麗の完璧美少女の道を行く、峯崎(みねさき) 伽凛(かりん)さんが俺になぜか話しかけてくるのだ。
それは朝の時間帯だけではなく当然、俺は友達になった覚えもなく、まるで友達のように休み時間も毎日接してくれるのだ。
それにより、皆が憧れの峯崎さんが俺みたいなボッチで、休み時間になったらすぐに机に突っ伏す奴といつも接してくれることに対して、クラスの皆から、はたまた学年全員から俺は嫉妬の的になり、理不尽な反感を買っているのだ。
友達に当然なってくれず、俺はこれまで以上にボッチな生活を送らなければならない状況に陥っている。
それにまだある───
「駿、お前また寝てたのかよ~。夜にゲームしすぎな? 体には気を付けろよな?」
「あ、あぁ優真か。でも止められないんだよね......ボスがなかなか倒せなくて」
「お、じゃあさ。今日お前んち行くから一緒に倒そうぜ。俺もボスが倒せなくてさ~」
「うん。暇だし良いよー」
「そうか!......おっと、もうすぐで朝活だな。じゃあ俺、自分の席戻るから」
と言って、自分の席に戻った友達がこれまた問題だった。
浅野(あさの) 優真(ゆうま)。こちらも容姿端麗で文武両道。まさに男版峯崎さんといった感じで、何だかんだで小学校からの友達だったために仲良くしてしまうのは不可抗力であるが、やはり女子からの視線がマジで心臓突き刺してしまうんじゃないかというぐらいに鋭い。
俺のせいじゃないっ! 不可抗力なんだっ!!
と、叫ぶのはさすがに止めとくが、叫びたいほどに訴えたい。
「はぁ......」
結果的に、この教室では峯崎さんと優真以外から、鋭い視線を感じ、仲間は二人しか居ないことが大いに、改めて理解出来た。
多分、この二人以外から全員に無視されるのはこれが原因だろう。
まさに宝の持ち腐れともいうべきか、これをいうなら『豚に真珠』というほうがしっくりくる。
まぁそんなわけで、俺は皆から理不尽な反感を受ける日々を毎日送り、毎日が長く感じてしまうというわけなのだ。
「俺なんか皆にしたのか......?」
そんな疑問を毎日抱きながら、いつものように皆からの痛い視線を浴びながら一日をスタートする毎日。
今も、そしてこれからも、駿はこんな日常が続くと思っていた。
「うん? なんだこれ......」
しかし、こんな日にもアクシデントは突然起こるというものだ。
床が微かに光り輝いたとき、俺は逃げたほうがよかったのか。
それとも逃げなかったほうがよかったのか。
未来の俺でも判断しかねるのだ。
? ? ? ? ? ?
───自分に呼吸があることを確認し、心底ほっとする。
重い瞼をゆっくりと開け、ボヤける視界だが、すぐにここは教室じゃないと判断できた。
天井がさっきいた教室よりも奥行きが断然あり、落書きでもなんでもない、様々な美しい壁絵が広がってたのだ。
蛍光灯、扇風機、いつもの白い天井などがなくなり、あるのはシャンデリア、大量の小さな小窓、彫刻が刻まれた石の天井だった。
「ここ......どこだ?」
いかにも中世的な造りで、場所で思い当たるところがあるとすれば、日本では教会しか思い当たらない。
教会に誘拐された......?
しかし、見渡しても室内からでもこんな広く、構造が凝っているのが確認できる建造物が、イメージする教会とどうも合致しない。
あれ!? 何で皆が!
何故かクラス全員が周りで至るところに倒れていることに気付き、驚愕した駿は、直ぐに優真の元に駆け寄り、息があるか確認する。
「............はぁ、生きてた」
寝起きでこんな衝撃的な映像を見せられるとは思わなかった......
駿がそんなことを思った瞬間に、優真がたてていた寝息を止め、おもむろに起き上がった。
「......っぁあ......うん? お、駿か......ん?......え?......て、ここどこぉっ!?」
「こっちが聞きたいよ......俺もさっきまで寝てたから」
「そ......そうか。わりぃな」
「いや俺も口には出さなかったけど結構パニックになったから別に気にすることじゃないよ」
優真は苦笑いすると、すぐさま立ち上がり、周りを見渡した。
どうやら周りに倒れてしまっているクラスメイト達を見ているようだ。
「......皆も寝てるのか。よし駿、まずは皆を起こすぞ」
「えぇ......切り替え早いよ......」
「いかにも嫌そうな顔するなよ......ほらやるぞ」
「......へいへい」
というわけで、優真と俺は手分けして皆を起こすことになった。
「おーい。起きろー......朝の時間かは知らんが、とりあえず起きろー」
駿は適当にクラスメイトの体を二、三回ゆすって、一声かけたあと、また他のクラスメイトを同じように起こすのを繰り返している。
嫌いな奴に起こされたくないよな......
毎日、駿に対して嫌そうにしているクラスメイトを起こすことに抵抗感が募るが、ここはグッと我慢して、このあと五人起こした。
あ......
突然、今まで迷いもなく、早く終わらせたい一心で動いていた駿の体が硬直する。
峯崎さん居るんだったぁ~......!
それは、整った横顔を長くさらさらした綺麗な黒髪の隙間から覗かせ、モデルを優に越すほどの無防備な美しい体を晒す峯崎 伽凛を前に、駿は思わず立ち止まってしまったのだ。
「すぅ......すぅ......───」
綺麗な音を出す鈴のように、微かな寝息をたてながら、あどけなさが残る美しい寝顔が視認できた途端、駿の脳内で何かが爆発したように言葉は次々と溢れだした。
どどどどうする! 優真はまだ六人くらい倒れている人を起こさないといけないから当分は来ないとして......だからといってこんな俺が峯崎さんほどの人を起こしていいものだろうか!? 否! 断じて否だ! 峯崎さんだって女の子......イケメンに起こしてもらいたいはずだ! いや、だけどこのままこんなところで寝かせておくのも失礼だし......! もうどうすれば......! 実は言うと俺は起こしてみたい......! 当たり前じゃないか! だけど......いや、でもここは毎日に理不尽な反感を買っている俺にもご褒美は一つくらいあっていいのではないだろうか! よし......これはご褒美だ。これは枯れ果てた砂漠に突然涌き出てきた真水なのだ。砂漠のなかで命の要となる水を取らない馬鹿など居ない! よって、俺はこの時を、この瞬間を楽しむことにする!
───ゴクリ......
「峯崎さん、峯崎さん......起きて」
葛藤を続けること僅か十秒、脳内で驚くほどの早口で葛藤を終わらせた駿に、もう迷いはなかった。
細く、柔らかい肩を優しく揺する。
「......んっ......ぁ......ぅ? ぁあ!? こここ近藤君!?」
ゆっくりと目を開け、目がしっかりと駿に焦点に合わさったとき、慌てたように起き上がった。
「おはよう峯崎さん。今はいつもと逆の立場だね?」
駿は跳ね上がる気持ちを抑えて、それでも会話できる喜びを噛み締めながら、平常心を保ち、笑顔を伽凛に向けた。
「っ!?............うぅ......」
そんな伽凛は何故か駿の顔をまじまじと見つめながら、頬を赤らめせている。
「うん? どうしたの峯崎さん? どこか痛いところでもあるの?」
「い、いやいや......! そんなことないよ......そ、そそれよりも......近藤君は此処がどこなのか分かる?」
伽凛はおもむろに起き上がりながら見開いた目で見渡し、率直に疑問に思ったことを駿に質問した。
「あ......いや、俺も分かんないんだ。さっきまで峯崎さんのように寝てたから......」
「そうなんだ......」
さすが峯崎さん......さっきとは180度方向性が違う内装をみて少し驚いただけとは......
感心していると峯崎さんが急に話しかけてきた。
「こ、近藤君っ......その......」
「......!?」
頬を火照らせ、うつむきながら話しかけてきた峯崎さんに、俺はこれ以上にないほど心臓が跳ね上がった。
な、なんだ......!?
駿がそう緊張していると、伽凛はうつむいた顔を駿に向け直し、改めて口を開く。
「えと......あ、ありがとう......起こしてくれて......」
「え?......あ、ああ! そんなことか! いいよ! 別に礼をするほどでもないことだし」
「う、うん! 分かった! でも......起こしてくれたのが近藤君でよかっ───」
「ん? なんか言った?」
「な、何でもない!」
「......?」
「駿! そっちは終わったかー?」
首を傾げていると、優真がそう言って駆け寄ってきたので、完了したことを優真に伝えると嬉しそうに「そうか!」と、笑顔で俺の肩に思いきり手を置いた。
クラスメイト達は覚醒しきってない人がほとんどなため、五分待機をした。
そして五分後
「よし! 皆起きてるか?」
「はーい」
似たような返事があちこちに響いた後、優真は手を叩き、まずはなぜこんなところに居るのかについて話し始めた。
「まずはなんでこんな場所で俺たちが仲良く眠っていたことについて皆がわかっている範囲でいいから何か教えてくれー」
優真はそう言ったが、誰も手をあげなかった。
「......そうか......俺を含めて全員知らないとなると、誘拐かはたまたテレビのドッキリしか思い付かないよな?」
「そうだね......」
伽凛は優真の言葉を肯定し、誘拐という言葉に不安を抱きながら首を縦に振る。
その後、次々にクラスメイト達は不安を口々にしていたが、優真が結論を出した。
「俺が考えた結果だが......これは誘拐だと思う。そもそも寝かすほどのことをいきなりするドッキリなんて聞いたことないし、カメラも一応起こしてる途中で歩き回ったがそんなものは見つからなかった......だから俺は誘拐しかないと思ってる。皆はどう思う?」
もっともな意見に、全員がうなずく他なかった。
そして頷くことによって、もしかしたら、という最悪の事態が、恐らく本当になってしまったことに全員が恐怖に包まれた。
そして同時に、30人いるはずのこの空間が、不気味な静寂に包まれた。
しかし───
「───お待ちしておりました。救世主の方々」
「「「......!?」」」
───突如、クラスメイト達しか居ないこの広大な部屋の静寂を破った身に覚えのない威厳のある声に、全員が驚愕した。
誰、このおじさん......!?
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