Three Themes Tales

間人真

第1話『かしかり』

お題   『布団』『USB』『野菜ジュース』

ジャンル 『指定なし』



「よく野菜ジュースのCMで、これ一本でレタス十個分の食物繊維が摂れる、みたいな文句があるだろ?」

 期末考査を控えた通常授業最終日。

 同じ講義を受けていたそいつが、授業終わりにレポートを写させてくれと泣きついてきた。毎年この時期になるとこういう輩が現れ、見た目が大人しい僕にたかってくる。

 初対面で図々しい。大学生にもなれば面倒な人間関係に煩わされないと思っていたのに。

 もう考査まで大学に来ることもないし、データは家にあるから無理だと遠回しに断ると、そいつは僕の下宿までついてきた。そして唐突にそんなことを言ったのだ。

「面積をわかりやすく伝えようとして、東京ドーム何個分、とか言っちゃうアレな。鈴木があの表現やたら使いまくってたけど、俺逆にわかりにくいと思うんだよな」

 そいつは我が物顔で僕のベッドに座り、ぺらぺらと喋った。鈴木とはレポートを課した教授のことだ。いや、そんなことよりも。

「勝手に座るなよ」

「いいだろ別に。あっ、お前んち羽毛かよ! 一人暮らしのくせに!」

 僕の機嫌など気にもかけず、そいつは畳んであった掛布団に頭からダイブした。立場を理解していないのだろうか。

 さっさと渡すものを渡して、追い出そう。レポートを丸写しされるのは癪だが、こんな奴に付きまとわれるのも面倒だ。

「レポート、コピーさせてやるからUSB貸せよ」

 手を出して催促すると、そいつは起き上がり言った。

「おお! サンキューな、大野」

「え……」

 あれ?

 なんで僕の名前を知ってる?

 唖然とする僕の顔を見て、そいつは首を傾げた。

「ん? お前、もしかして俺のこと覚えてない? 去年、物理学の授業でお前にノート借りたんだけど」

 ノート。誰かに見せた記憶はあるが、相手の顔など覚えていなかった。それに、自分の名前なんて教えてないはずだ。

「いやあの時は本当に助かった。おかげで単位も取れたし。ずっと礼がしたかったんだけど、学科が違うから名前しかわかんなかったんだよ」

 言いながら、鞄をごそごそと漁る。ほい、と差し出された手には質素なデザインのUSBとチョコレートの包みが乗っていた。そいつは僕の方に向き直り、居住まいを正して咳払いを一つ。

「そのチョコには、俺の二単位分の価値があります」

 鈴木教授の口真似。わざわざそんなことを言うために僕を探して、挙句また僕の世話になろうとしているのか。

「……何それ。わかりにくいよ」

 本末転倒なそいつの行動に、僕は思わず笑ってしまった。

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