第13話 犯人の動機

 自室での待機を告げられたレイフは、一人無為な時間を過ごしていた。


 妖精が行方不明になっていることや、影妖精が連続盗難事件について何か知っていることなど知りうる限りの情報をドミニクに話し、動いてもらっているが、レイフには何も出来ない。それが歯がゆかった。


 それに、こういう時無駄な行動力を発揮する助手が心配だ。勝手な事をして仲間に迷惑をかけたり、危険な目に遭っていなければいいが。


「レイフ、昼飯持ってきたぞ」


 扉の外からエドガーの声がかかる。立ち上がるのも億劫なレイフはベッドに座ったまま「ああ」と答えた。

 サンドイッチとスープが乗ったトレイを手に部屋に入ってきたエドガーは、レイフの顔を見るなり苦笑いする。


「すっげぇ恐い顔になってるぞ」

「したくてしている訳じゃない」


 そう言って溜息を吐くレイフを気の毒そうに見つつ、サイドテーブルにトレイを置く。


「ノアが捜査係を飛び出したまま帰らない、っつったら、もっと酷いことになりそうだな」

「なんだと? あのバカっ!」


 心配が的中し、レイフはぎり、と奥歯を噛む。

 ドミニクにもノアがちょこまか動き回らないよう頼んでいたが、それをノアに伝える前に飛び出してしまったのだろう。


「なんだかんだ言って、ノアのこと大事にしてるよな」

「……周りに迷惑をかけていないか心配しているだけだ。助手の不手際は俺の責任でもある」


 レイフはにやにやしているエドガーから顔を反らし、礼を言ってからサンドイッチにかじりついた。


 照れ隠しのように黙々と食事をするレイフの傍らで、エドガーはふと真剣な顔をする。


「レイフ」

「なんだ」

「お前は、妖精を恨んだりしないのか」


 思い詰めたふうな声音で言われ、レイフは食事の手を止めた。


 レイフがチェンジリングに遭い、奇異な目と特殊な力を有していることは、エドガーも知っている。彼は異形を気味悪がるでも同情するでもなく、さらっと事実を受け入れた。

 そのため、レイフが妖精をどう思うかについて今まで触れられたこともなかった。


「恨んではいる。が、恨んだところでどうなるものでもない。諦めて受け入れてしまえば、この目も存外便利だ」


 レイフは自嘲気味に口元を上向かせ、右目を隠す髪をかきあげる。


 隠している時点で、本当の意味で受け入れたことにはならない。それでもドミニクやエドガーのように、この目を理解してくれる者がいる。

 ノアのように、レイフを好きだと言ってくれる者もいる。レイフにはそれで十分だ。


「こんな目でも、人間と妖精の融和に役立つなら、存在意義になる」


 かつてドミニクや養父が道を示してくれた。抉り出したいほど忌み嫌う異形の目も、使いようなのだと。


「……そうか。やっぱりお前は、そっち側なんだな」


 呟き目を伏せたエドガーは、襟足へ手をのばす。その手に違和を覚えたレイフは、エドガーの手を指差し「どうした?」と問う。

 エドガーの親指の付け根あたりには、ガーゼが貼り付けられていた。


「あぁ、犬がいたから触ろうと思ったら噛まれちまってさ」

「お前、犬好きだったか?」

「ああ。大型犬とか好きだぜ。言ったことなかったか?」

「初耳だ」

「じゃあ覚えてくれ。あぁでも、俺の誕生日に犬のぬいぐるみくれるとかは勘弁な!」


 男に貰ってもうれしくない、とからからと笑って、エドガーはレイフの部屋を出て行く。


(……何かひっかかるな)


 一人になったレイフはサンドイッチをかじりながら、違和の正体を探る。


 ほんの微かにだが、エドガーの手からはエルフの気配がした。

 ドミニクから聞いたところによるとエドガーが影妖精を妖精界まで運んだらしいため、エルフの気配がしてもおかしくはないのだが……なぜ手からだけなのか。


 影妖精を渡す際にエルフに触れたなら、もっと強い気配が残るはずだ。そもそも光を嫌う影妖精を、直接エルフに手渡すだろうか。


「くそ……」


 同僚を疑うような居心地の悪さのなかでも、レイフは考え得る限りの様々な可能性に頭を巡らせた。


        ---+---+---+---+---+---


 がらんとした地下室に、階段を降りる足音が響く。

 そこは昨日まで反妖精派組織“鋼竜の鱗”のアジトだったが、他の場所に拠点が移されることになったため、今は誰もいない。


 鉄のランタンは炎を灯さず、ハーブやハシバミの枝はごつごつした床の上に打ち捨てられている。捕らえていた妖精たちはすべて余所へ移したため、用済みとなった空のカゴや木箱が転がっているだけだ。


 それでもむき出しの岩肌には人々の憤怒と怨嗟が染み付き、今にも妖精を責め立てる声が聞こえてきそうだった。


「このままお前をここに置いておくと、回復しちまうらしいからな」


 男は唯一の光源である手持ちのランタンを、テーブルの上の黒い糸ゴミの傍に置く。

 黒い糸――影の妖精は光を嫌い這うように逃げ出すが、その先には白い手袋をした男の手が先回りし、道を阻んだ。


「影の妖精なら、死んでも影に戻るだけだろ」


 持ち上げられた手が、衰弱しきった影妖精めがけ下ろされる。ばん! と手のひらがぶつかる音がしたが、男の手はまだテーブルに届いていなかった。


「誰だ!?」


 男がランタンを向けた先――地上へ続く階段の前では、両手を合わせたノアが眉を吊り上げて立っていた。


「どこの誰だか知りませんが、妖精を殺そうとした罪で逮捕します!」

「なにを、っ!?」


 ノアへ近付こうとした男は、背後から腕を取られ動きを止める。男の後ろには、闇に紛れるような暗色の装いをしたレイフがいた。


「現行犯だ。言い逃れは出来ない」


 男を捻りあげたレイフはその手に錠をかける。そして煩く喚く男を無視し、テーブルの上で今にも闇に溶けてしまいそうな影妖精に、語りかけた。


「妖精館の捜査員たちが今、お前の仲間の救出に向かっている。お前自身も療養が必要なことはわかるな?」


 影妖精があまりに縮んでしまっているため、ノアにはテーブルに落ちた影と影妖精との境目がわからない。

 けれどレイフにはちゃんと見えているのだろう。ラウェリンが用意してくれた黒曜石の箱を差しのべ、しばらく待ってからフタを閉めた。


「入ってくれた?」

「ああ。黒曜石に込められた魔力で、じき回復するだろう」

「よかった……」


 ほっと胸を撫で下ろしたノアはレイフの傍へ行き、優しい目で黒々とした箱を見つめる。


 予知能力で“影妖精を助ける未来”を見て、この地下室を探り当ててくれたエムリスには感謝してもしきれない。

 犯人を待ち伏せるため大急ぎでレイフを連れて来てくれた小人にもお礼を言わなければ。影妖精も、弱った身体で無理を押して頑張ってくれた。


「ご苦労様」


 そっと黒曜石の箱に触れると、なかの闇が身動ぎした気がした。


「影妖精の件に関してはよかったが、お前については全く良くないぞ、ノア」

「う」


 低い声と共にノアを睨むレイフの視線は、アイスピックよりなお鋭い。

 怒られる心当たりがありすぎるノアは、乾いた笑いを漏らす他ない。


(やっぱり見た目でばれるか……)


 ラウェリンとエムリスのおかげで、ノアが妖精界にいた時間は短縮され、人間界の時間で三時間半ほどで済んだ。


 しかしノア自身の時間を戻すことは出来ず、髪は伸び容姿も少し大人びていた。おそらく二年分ほど時が進んでしまっているだろう。

 別段服がきついわけではない成長のなさが少し悲しいが、ノアはあの時太古の森へ――妖精界に行ったことを、後悔していない。


 しかし、レイフがどういう反応をするかは恐かった。とはいえ隠し通せるものでもない。


(さて、どう話したものか)


 胸の辺りまで伸びた栗色の髪に触れながら、ノアは切り出し方に頭を悩ませる。


「ノアたちのボスから連絡が来たよ。行方不明だった妖精たちは無事に保護された、って」


 上階へ続く階段の上から、エムリスが顔を覗かせる。エムリスの肩では、二頭身で木の葉の洋服を着た木霊の妖精が、短い手を腰にあて得意げに胸を張っていた。


 木霊妖精はそれぞれ自分のなわばりを持っていて、仲間同士での精神感応テレパシーを駆使して人間界と妖精界との伝言を繋いでくれている。


 しかし彼らが思考を飛ばせる距離には限りがあった。

 今回のように何人かの木霊妖精が連れ去られてしまうと、中継する者がいなくなり、連絡が届かなくなってしまうのだ。


「こちらも犯人を捕まえたと伝えてくれ。今から連行する」

「待ってくれ、オレは妖精を痛めつけていない! 組織の仲間にここに瀕死の妖精がいるから、片付けるよう言われただけだ!」


 上階を見上げるレイフに、手錠をかけられた男が無実を訴える。

 しかしたとえ別の人間が暴行を加えたのだとしても、彼が影妖精を無に帰そうとしていた事実は消えない。

 男はなおも騒いでいたが、レイフに追い立てられ階段を登っていった。


 ノアも後に続こうと、階段の一段目に足をかける。しかし地下室の片隅――打ち捨てられた木箱の上に、見覚えのある黒いコートを見つけ足を止めた。


「これって、レイフの?」


 ダブルボタンのコートを広げてみると、サイズもレイフのものと相違なかった。


「どうした、ノア」


 階段の上から声をかけられたノアはコートを手に、レイフの元へ向かった。


「これ。レイフのじゃない?」


 ノアからコートを手渡されたレイフはそれを見つめて、眉を寄せた。


「やはり、あいつが……」

「あいつ?」


 レイフはためらう素振りを見せたのち、ノアに答えた。


「このコートには黒曜石の箱のように魔力が織り込んである。とはいえ、箱とは比べ物にならないほど微々たるものだ。応急処置程度にしかならない」

「でも、コートがなかったら影妖精は危なかったんじゃない? 発見されたとき酷い状態だった、ってアランも言っていたし」

「ああ。だから俺は、自分のコートごとアランに託した。……影妖精を妖精界へ連れて行かずここに隠した犯人がコートの魔力のことを知っていたかどうかは知らないが、捨てずにいてくれて助かった」


 レイフが言葉を切ったとき、木霊妖精が「リンリン!」とかわいらしい声をあげて、仲間からの精神感応があったことを告げた。


『おいレイフ、そっちにエドガー行ったか? 途中から姿が見えなくなっちまったんだが』


 声は木霊妖精のものだが、口調はドミニクのもののようだ。ドミニクが裏声で喋っている様を連想したノアは、思わず笑ってしまいそうになる。


「こっちには来ていないが……心当たりがある。俺が探しに行く」

『そうか。じゃあ頼んだぜ!』


 木霊妖精の精神感応が終わると、レイフはノアを振り返った。


「お前も、着いて来るというのだろうな」

「邪魔じゃないのなら」

「……そうだな。居てくれると、助かる」


 レイフの言動は珍しく素直だ。柔らかな、けれど何か支えを必要としているかのような表情を向けられたノアは、一も二もなく頷いた。



 ソノレアの中心部からやや南に下がった場所にある高台からは、港の様子がよく見えた。


 港では北の町から来た騎士団を歓迎するための祭りが行われており、人でごった返している。

 旅芸人が見せる技巧に沸く歓声や、鎧をまとった勇壮な騎士にはしゃぐ子供の声。屋台で売られている食べ物の匂いまでが風に乗って伝わって来そうだ。


「――大人になったらあの騎士団に入るのが、俺と兄貴の夢だった」


 木の柵に体重をかけたエドガーが、独り言のように語る。その背中を、ノアはレイフの隣で見つめていた。


「だが兄貴は足を怪我して、早く走ったり長時間立っていることが困難になっちまった。それが原因で親父はお袋を責めて、最終的に離婚。俺は何もかも嫌になって、家出した」


 同じような話を、ノアは最近耳にした。


(そうか、パン屋のロレンスとエドガーは、兄弟なんだ。ロレンスの母親も“息子たちの夢”って言っていたし)


 気づいてみれば、エドガーとロレンスは同じ赤い髪をしている。タイプは違うが二人とも周りに気を配れるし、面倒見が良さそうなところも似ていた。


「俺はずっと、兄貴を怪我させ、家をめちゃくちゃにした妖精が憎かった」


 そう言って、ようやくエドガーが振り返る。港の景色を背負った彼の顔は、怒りに歪んでいた。


「妖精館の捜査員になったのも、妖精への復讐のためだ。この指輪を持っていると妖精に友好的だと思われて、向こうからほいほい近付いてくる。やつらを騙すのは簡単だったぜ。そそのかして捕まえるのも、盗みをさせるのも。笑っちまうくらい楽だった」


 ブルーベルを埋め込んだ指輪を掲げたエドガーは、嘲るように笑う。彼のそんな表情を、ノアは初めて見た。

 今までずっと、エドガーは妖精を恨む本性をひたかくしにしていたのだろうか。


(そうだとは、思いたくない……)


 裏切りを信じたくないノアは、強く拳を握る。ノアの隣では無表情のレイフが、淡々とエドガーに問いを投げかけた。


「影妖精に妖精の宝を盗ませたのも、影妖精を傷つけたのも。お前だと認めるんだな」


 断定的な言葉と共に、レイフの視線がエドガーの手元へ向かう。その視線を受けて、エドガーは親指の付け根に貼ったガーゼを外した。


 インクが滲んだように黒く変化した手には、等間隔の凹みが楕円状に刻まれている。まるで何かに噛みつかれた跡のようだ。


「ゴブリンも俺がやった。兄貴だけでなく姪っ子にまで手ぇだすなんて……許せるわけがねぇ!」


 力任せに柵を叩いたエドガーは、ぎり、と歯を鳴らす。


「二度と家族を傷つけさせないために、実家周辺の妖精を排除してたってのに!」

「その排除した妖精のなかに、チェンジリングを行ったゴブリンの仲間がいたらしい」


 レイフが告げた言葉によって、エドガーの顔に自嘲が広がった。


「なんだよ、ゴブリンの報復か。それじゃ姪っ子が浚われたのは、俺のせいじゃねぇか……」


 皮肉に髪をかき乱すエドガーからは、強い後悔が表出している。

 自業自得といえばそれまでだが、家族を思う気持ちが裏目に出て、姪っ子を奪われてしまうなんて……エドガーはどれほどの自己嫌悪を感じているだろう。


 ノアは俯くエドガーに言葉をかけようとしたが、エドガーが口を開く方が早かった。


「呪いみたいだよな、妖精の存在ってのは。この島にいる限り、どこまで行っても妖精から逃げられねぇ」

「そうだな」


 短く肯定したレイフは真正面からエドガーを見据え、「だが」と切り出す。


「殺したいほどには、妖精を憎んでもいないのだろう」

「あの時俺は、ゴブリンが死んでも構わないと思った。影妖精だってそうだ。エルフの手袋噛んで弱った奴を振り払って、怒りに任せて握りつぶそうとした」

「それでも、お前は妖精に止めを刺さなかった」


 毅然としたレイフに、エドガーは何も言い返さなかった。


「ゴブリンは血塗れでも息をしていたし、発見されたのも人目につきやすい場所だ。影妖精とてそうだ。その辺りに放置すれば幾らもたたず消滅したにも関わらず、わざわざ日の当たらない地下室に隠した」

「そんなの、そっちに都合の良いように解釈しただけだろ? 俺はレイフほど頭が回らない。魔力やら妖精の気配やらもわからないしな。アランが助手してくれなけりゃ、まともに仕事もできねぇ」

「……そんなことないよ」


 自分を卑下するエドガーを見ていられなくて、ノアは口を挟む。


「影妖精に盗ませた妖精の宝を売ったのは、わざとじゃないの? 宝を奪うだけなら、闇に紛れる影妖精の特性からして、足が着く可能性は低い。でもそれを売れば目撃者も出てくるし、盗品を買った人から捜査の手がのびることだってあるはず」


 現にノアの両親は、盗品である指輪を買ったことで捜査対象になった。そこから紆余曲折を経て、こうして犯人へと繋がっている。


「類は友を呼ぶってやつさ。俺と一緒で頭の悪い連中があの組織に集まっていて、後先考えず金儲けのために宝を売っただけだ」


 肩をすくめたエドガーはじっとノアを見て、顎に手を当てた。


「ノアの両親の件。レイフに引き継がずあのまま俺が自分で担当していたら、ごまかせたかもな。惜しいことをした」

「それだって、レイフに代わる必要が本当にあったの? 両親を連行するふりをするんじゃなく、色々でっちあげて罪を着せることも出来たと思う。組織の人に嘘の証言を頼むとかして。

でも、エドガーはそれをしなかった!」


 ノアはぐっと両手を握って、エドガーに訴える。


「わたしはそんなに長い時間エドガーと過ごしたわけじゃないけど、かけてくれた言葉とか思いやりだとかがお芝居だったとは思えない。それに本当に心底妖精が憎いなら、人間と妖精を繋ぐ仕事は出来ないよ。四六時中妖精や、妖精に関する出来事に関わる仕事だもの。

復讐のためだけで長く続けるのは、難しいと思う。……エドガーはどこかで、折り合いをつけたかったんじゃないの? 妖精への恨みや、憎しみに」

「ふ……ははっ! お前ら二人揃っておめでたいな!」


 身体を折って笑うエドガーはしかし、どこか虚しさを漂わせていた。それが痛々しくて……ノアはエドガーに歩み寄り、怪我をしている手をそっと取った。


「ロレンスは、今が大切だって言っていた。妖精への恨みがないわけじゃないけど、それでも家族と一緒に強くあろうとしていた」


 真顔になったエドガーは、ノアの手を振り払わなかった。

 エドガーの目に映るものが暗いものばかりではないと信じて、ノアは両手に力を込める。


「妖精への恨みや憎しみは、消せなくてもいいと思う。辛いことを無理に忘れようとすると、もっと苦しいはずだもの。

でもいつか、ほんの少しでも違う方向に目を向けることが出来たら、見えてくるものもあるんじゃないかな。なくしたものの他に、今ある大切なものが」

「……そういう青臭いことを臆面なく言えるのは、若い奴の特権だな」

「一度実家へ帰ったらどうだ、エドガー」


 短く笑ったエドガーとの距離を、レイフも一歩分縮める。


「お前一人で抱える事はない。俺たちでいいなら幾らでも話を聞くが、あそこにはお前の好きな犬のぬいぐるみがある」

「は?」

「犬のぬいぐるみ?」


 エドガーとノアは揃ってぽかんと口を開ける。しかしエドガーは合点がいったようで、大きな声を出した。


「ああ、甥っ子が生まれたときに俺が置いてきた奴か! 送り主の名前もない贈り物なんて怪しいだろうに。兄貴のやつ、相変わらず無用心だな!」


 一頻り笑ったエドガーはいくらかすっきりしたふうな顔で空を仰ぎ、一つ息を吐いた。


「そうだな。だいぶ先になるだろうが、一度帰るか――」


 エドガーはこれから一連の事件に関して、取り調べを受けなければならない。当然罪も償わなくてはならない。


 それでもノアは、いつかエドガーが大切な人たちと痛みを分け合って、深く刻み込まれた傷が少しでも和らぐことを祈った。

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