第220話 アストラッドへ⑥
「二人はどうして一緒に来なかったんだろうか?」
「そうだね。多分目的地がケベックでは無くて別のところで、それを僕たちに知られたくなかった、ということかも知れないね」
「別のところってどこだよ」
「多分、トーアかな。ウラノからの道は二つしかないからね」
「トーアなんて山奥に何の用があると言うんだ?」
「それは僕にも判らないよ。何か、若しくは誰かを目的としているんじゃないかな」
誰かだとしてもトーアに居る者はほとんど林業を営んでいるたけで到底シェラックが会う必要のある者が居そうにない。とすると物か。
「ジェイ、頼むよ」
(相変わらず用がある時だけ思い出すのだな。判っておる、目的を探ってくればよいのであろう)
「そうなんだけど、シェラックは相当な魔道使いだから十分気を付けるんだよ」
(儂を誰だと思っておる。若者風情には引けを取らんわ)
「まあ、いずれにしても気を付けて」
ジェイはロックたちと別れてウラノに残ってシェラックの動向を探ることになった。
「それにしても何事も起こらないな。少し物足りないぞ」
ロックは不穏な事を言い出す。確かに今まではミロの所為もあって攫われたミロを救い出すことが多々あったのだ。
「何もないのがいいんだよ」
「そうかな。修行には色々と起こってくれた方がいいんじゃないか?」
「なんでロックは揉め事好きなんだよ」
「揉め事が好きなんじゃなくて強い剣士が好きなだけだ」
「でも暫らくは強い剣士が居そうにないよ」
「それは残念。とりあえず大きな街まで急ごう」
ウラノからケベックまではロパース河沿いに街道を進むと徒歩では6日ほどかかってしまう。途中五つほどの小さな街や村を経て着くのだが馬車なら3日ほどだ。
二人は馬車をアカウルで手放していたのでずっと徒歩になった。
ウラノを出て一つ目の村には宿が一つしかなかった。泊れる人数も五組十人が限度のようだ。農業の傍ら副業で宿屋もやっているらしい。
「親父さん、二人一泊で頼むよ」
「一人銀貨2枚食事はないぞ」
「えっ、それは高すぎないか?」
普通この手の宿屋であれば食事が付いていないのだとしたら一人銅貨1枚で十分な筈だった。それが銀貨2枚なら20倍になる。
「嫌なら出て行ってくれ」
宿屋の親父は素っ気ない。ただ少しだけ怯えた表情も見せた。何かあるのかも知れない。二人は仕方なく銀貨4枚を親父に払って泊ることにした。
「ジェイはまだ戻らないね」
「そうだな。あいつらがウラノから出たのかも判らないし、まあジェイなら大丈夫だろうよ」
「うん。戻ったら美味しい物でもあげないと」
「ルークはジェイを甘やかしすぎなんじゃないか?」
「いやいや、ジェイの存在は本当に助かっているんだから、まあたまに存在を忘れてしまうことはあるけど」
ゴトッ。
「なんだ?」
もう深夜なのだが外に人の気配がした。扉の前でこちらの様子を伺っているようだ。
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