第191話 剣士祭Ⅲ⑦
ロマノフ=ランドルフは強い。但し昨年3位の成績でも判るようにマゼランでトップに君臨する三騎竜やクレイオン道場には及ばない。
昨年も本選準決勝でクレイオン道場に敗れて、ダモン道場を3位決定戦で破ったのだ。
ただロマノフ個人としては準決勝の大将戦でマシュ=クレイオンに敗れた1敗だけだった。
三騎竜は剣士祭にはまず出場しないので実質マシュがマゼランで一番の剣士ということになる。ロマノフはその次が自分だと確信している。
それほどの強さを備えているのにも関わらず裏の手を使って他の道場を出場させないよう仕向けたりしているのだ。
ロマノフは直前のルークの試合を見ても自信が揺らいでいない。シューアの、よく判らない内に負けて、という言葉を聞いて、ルークの実力を下に見たのだ。
「やっと出番だな」
「ロック。気を付けなよ、普通に強いよ」
「判っている。嫌な奴だが強さは本物みたいだ。それだけに」
「嬉しいんだろ?」
「そう。なんだかワクワクしてきた。よし、気合入れていくぞ」
ロックは本当に嬉しそうだった。
「大将戦ローカス道場ロック=レパード対ランドルフ道場ロマノフ=ランドルフ、始め」
大将戦が始まった。二人は闊達に打ち合う。
ロマノフは一度ロックの試合というか道場に居たほとんどの剣士がロックに打ちのめされているのを目の当たりにしている。
それでもロマノフの自信は揺るがない。あれが全力であれば問題は無い、と思っていた。
珍しくロックも打ち込んでいく。相手の剣を受けるだけではない。
マゼランでも上位に入るロマノフの腕を十二分に体感したいのだ。
ロマノフも打ち込むのを止めない。体力には自信がある。若いが痩せ型でひ弱そうなロックには持久力が無いと思っている。なので打ち込むのを止めない。一度に勝敗が付かないとも思っているのでロックを疲れさせようというのだ。
見た目には痩せ型のロックだが、その身体はしなやかな筋肉の塊だった。無駄に大きくはない。実に剣士としてバランスが取れているのだ。
背はロマノフの方が高い。ロックはローカス道場でもアクシズよりも低くルークよりも少しだけ低い三番目だ。
試合は止まらない。二人とも休むことをしない。ずっと打ち合っている。今年の剣士祭のどの試合よりも長いく打ち合っている。剣速、体捌き、見切り、全てのおいて対等に見えた。
ロマノフは意外に思っている。手を抜いている訳ではない。それが決定的な場面を作れないでいた。自分と全く同等の剣士と戦っている気分だ。ロックがそれほどの剣士だとは思っていなかったのに。
「ロマノフ、何を長々とやっておるのだ、さっさと決めんか」
サーシャ=ランドルフが苛立って叫んだ。サーシャの目にもロマノフとロックの力の差が見えないので、より苛立っているのだ。
サーシャの声にも関わらず二人は打ち合いを止めない。
「ロックは遊んでいるのか?」
アクシズがルークに尋ねる。ロックの力量は知っているつもりだったが、その底は見たことが無かったのだ。
「遊んではいないよ、ただ相手の技量に完全に合わせているみたいだね」
ロックは相手の技量を正確に測り、完全に再現していたのだ。力も技も早さも完璧に再現して見せた。相手はそのことに気が付いていない。ロックはそのままどこまで続けられるのかを試していたのだ。
「ロック、そろそろ飽きてきたんじゃないか?」
ルークが声を掛ける。
「いや、本当に面白い。楽しくて仕方がない」
ロックは嬉しそうに言う。まだまだ続けられそうだった。
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