第190話 剣士祭Ⅲ⑥
「よし、次は僕だね」
珍しくルークが気合を入れている。強い剣士と試合いたいロックと違いルークの剣士祭の目的はクスイーの為にランドルフ道場に勝つ、ということだったからだ。
そして中堅にはランドルフ姓を持つシューア=ランドルフが出て来る。塾頭であり大将のロマノフ=ランドルフの甥にあたる。ランドルフ道場を今後背負っていく存在と目されている期待の星だった。
「ルーク、去年の三位は伊達じゃないぞ」
アクシズも喝をいれる。
「副将戦ローカス道場ルーク=ロジック対ランドルフ道場シューア=ランドルフ、始め」
シューアは若い。ただルークの方がもっと若い。シューアが侮ったとしても仕方がないだろう。そして自信に基づいた過信があった。
直前の試合を見てもシューアの自信は揺らいでいない。年齢的に一番歳上のアクシズが中堅で出るのは作戦で確実に1勝を取りに来ていてローカス道場で一番強いのがアクシズだと見たのだ。
アクシズにはそう思わせるだけの技量と雰囲気があった。
アクシズが一番強いのだとすると、アクシズ相手に勝ちを確信したシューアにとってはアクシズよりも弱い筈の副将や大将は敵ではない。
確かにアクシズと試合ったとしたらシューアに分があったかもしれない。まだまだ発展途上ではあるがシューアは確かにランドルフ道場の希望なのだ。
しかし勝負は一瞬だった。ルークは時間を掛けて相手との試合を楽しむ気が無い。シューアの剣を受けずに流してシューアの首に剣を当てた。
実際には当てていないのだがシューアは首を切られたと思った。殺気を孕んだ剣は真剣の様にシューアの首を襲ったのだ。
背中に流れる冷や汗とともにシューアは自らの未熟さを痛感したのだった。
「そこまで、ルーク=ロジックの勝ち」
本選で最短の試合だった。しかしそれほど力の差があった訳でも無い。十分シューアは強かった。ただルークは相手に付き合う気がなかっただけだ。
「申し訳ありません」
シューアが道場主であり祖父でもあるサーシャ=ランドルフに報告する。
「仕方あるまい。修行が足りんのだ。相手の力量を図れるようになるのも修行だ。お前はロマノフの後を継ぐ身なのだ、本来こんなところで躓いている暇はない」
「判っています。同じ過ちは二度と繰り返しません」
そういうとシューアは次の試合も見ずに控室に戻ってしまった。あまり表情には出さないが相当悔しかったのだ。そして不甲斐ない自分に腹が立っても居た。
「ルーク、なんだよ」
「なんだよって?」
「もうちょっとちゃんと試合しようぜ」
「いや、何度も打ち合ったって無駄だよ。勝てる時に勝つ、それでいいんだ」
合理的な考え方ではあるがロックは少しついて行けない。最後までどっちが勝つのか判らない、というのがロックの信条だったからだ。
但し、ある程度技量に差が無いと一撃で勝つなんてことはできない。
「ロマノフ、まさかこんなところで終わりなどということは無かろうな」
「父上、問題ありません。少しだけお待ちください」
ロマノフの顔には自信が満ちている。今のルークの勝ち試合を見ても、この表情だ。シューアは若くて油断しただけだと思っているのだ。そしてロックの腕も前に道場で見ている。
「何一つ問題ありません。行ってまいります」
2勝2敗、剣士祭本選準決勝進出を掛けた大将戦が始まる。
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