第184話 剣士祭Ⅱ⑩

「ここで何をしているんですか?」


 一応顔見知りだったので驚かせないように声を掛けた。


「えっ、あっ、ごめんなさい」


 それでもトリスティアは驚いたようであたふたしている。


「いや、別に怒っていないから謝らなくてもいいよ。でもどうしてこんなところに居るんだい?」


 トリスティアは中々話そうとしない。


「何かあったのかな?中で話を聞こうか?」


「いっ、いえ、それは。判りました、こんなところで道場を見張るようなことをしていたら怪しいですよね」


「怪しいと言うか、まあそうだな理由は聞きたいかな」


 トリスティアは決心したようだ。


「判りました。私はただクスイー様のお姿を拝見したかっただけなのです」


「クスイーを?」


 確かドーバ―道場戦でクスイーはトリスティアに負けた筈だ。


「そうです。クスイー様のお姿を一目見たかったのです」


 そういう事か。


「でも、なんでクスイーなんだ?試合は君が勝ったよね」


「あの試合でクスイー様は一度も私に対して剣を振るいませんでした。他の人との試合を見せていただきましたが、クスイー様の剣速はマゼランで一番だと思います。その方が私に対して一度も剣を振るわなかった。私がクスイー様が気になった理由の全てです。試合に勝ったときは勝ちを譲られたと思って心外だったのですが」


 女であることで特別扱いされてこなかったのかも知れない。それが大切な試合で一度も剣を振るわず負けて行ったクスイーが気になった、ということか。


「でも、ごめんね。本選が終わるまでは、その君の気持をクスイーに伝えるのは待ってくれるかな」


「判っています。クスイー様の負担になる気はありません。お顔を拝見できれば、と思ってきましたが、少し見させていただきましたので今日は帰ります。本選も応援していますので頑張ってください」


「ありがとう。本選が終わったらまた本人に声でも掛けにきてくれるかな」


「判っています。その時はちゃんと玄関からお伺いします」


 そういうとトリスティアは去って行った。二十歳そこそこで道場代表になったのだ、相当な修行をしてきたのだろう。


「なんだ、ルーク。解決したのか?」


 道場に戻るとロックが聞いてきた。


「うん、もう大丈夫。変な人でも無かったしね」


「お前が問題ないと言うのならそれでいい」


 トリスティアの恋心が実るかどうかは判らない。元々クスイーはアイリス=シュタインを襲ったランドルフ道場に勝ちたい一心で剣士祭に出場しているのだ。

 

 そして翌日、ついに待ちに待った剣士祭本選が始まる。

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