第181話 剣士祭Ⅱ⑦
「大将戦ダモン道場ローデ=ダモン対ローカス道場ロック=レパード、始め」
両道場にとって初めての大将戦だった。当然二人の大将も初めての試合だ。但し、ダモン道場のローデは昨年は4位になっている経験者だ。
対してロックは剣士祭に出ること自体が初めてであり初試合だった。
「さて。去年の4位は強いのかな」
ロックは下手をすると腑抜けた表情で構えている。ローデは間違いなく馬鹿にされていると感じている。ロックにそのつもりが無くても相手からすると見下されているとしか思えない。
「レパードの名を汚すなよ」
聖都騎士団所属の道場だ、当然ロックが副団長のバーノン=レパートの次男だと知っている。
「多分大丈夫だと思うよ」
ロックは相手を完全に煽っている。逆にバーノンの息子だと思って手を抜かれては堪らない。
ローデは昨年4位の大将に相応しい技量だった。打ち込みも鋭い。ロックの打ち込みに対しての受けも申し分ない。先を読む力も相当なものだ。問題は性格くらいだろう。ロックはそこが気に入らなかった。
ロックは相手の技量を正確に把握し、どのくらいの強さで打ち込めば、どのタイミングで打ち返してくるかを何度か図っていた。
やはりクリフ=アキューズなどと比べるとかなり落ちる。ロックはクリフやマシュ=クレイオンと試合うまでは負けられない。
「なんだお前は、まともに試合う気が有るのか、のらりくらりと」
ロックはローデ相手に練習している。ロックを見下していたローデは真剣には打ち込んでこなかったのだが、いつまで経ってもロックに有効打を打ち込めないことに苛々し始めた。
ローデがいくら打ち込んでも全てロックは受け流してしまう。ローデは自身とロックとの技量の差を全く感じていない。いつでも勝てると思っていた。
ロックは師匠であるヴォルフ=ロジック直伝の戦法を採っていた。相手に自由に打ち込ませて疲れたところを仕留めるのだ。
実戦では使えないが試合では有効だった。但し相手の打ち込みを悉く受けるか躱さないといけない。それで自分が疲れてしまうと元も子もない。
最小限の動きで受ける。躱す。時々打ち込む。ロックは練習も兼ねて出来るだけ長い間相手の剣を受けるつもりだった。
ローデは途中から真剣に打ち込んできた。その分疲れるのも早い。但しローデも剣士として一流だった。打ち込む剣速も落ちないし打ち込む力も落ちない。
「本当に4位は伊達じゃない。強いよ、この人」
これは煽っていない、ロックの本心だった。但し、ロックの目はもっと先を見ている。
「ロック、梃子摺っているように見えるけど大丈夫?」
ルークがロックを煽る。そろそろ決着を、と言う意味を込めての煽りだ。
「だ、い、丈夫に決まっ、て、いるだろう」
セリフが途切れ途切れになってしまうのはローデの技量が高くロックが余裕で受けきれていない、という証拠だ。
ロックは体力的にはまだまだ余裕だったが、これ以上ローデから学ぶものがない、と判断した。
「ちょっと力を籠めるよ」
そう言うと上段から真っ直ぐ打ち込んだ。ローデも余裕で受ける。確実に受けた。ただ、ローデの剣はそのまま地に落ちていた。
「おっ、お前、何をした?」
ローデの問いにロックは答えない。
「そこまで、ロック=レパードの勝ち。これで三勝二敗でローカス道場の勝ちになり、本選出場が決まりました」
審判が宣言する。
昨年4位のダモン道場が予選で敗退してしまった。ローデは納得いかない表情でロックを睨みつけるが結果は変わらない。ダモン道場の今年の剣士祭はここで終わってしまったのだ。
「これで本選決定か。クリフさんのルトア道場と当たるといいね」
「本選は何試合あるんだ?」
「二次予選と同じ三試合だよ。三回勝てば優勝だ」
本戦は対戦相手の抽選をした後、三日後に始まる。
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