第179話 剣士祭Ⅱ⑤
「次鋒戦ダモン道場ウル=ロマネス対ローカス道場クスイー=ローカス。始め」
クスイーも後先考えずにとりあえず持てる全ての技をクスイー本来の剣速で放つ。相手は付いてくるのに精一杯だ。クスイーの剣速がマゼランで一番なのは相手も痛感している。ただ問題は、速ければいい、ということではないことだ。
アクシズが見るにウルはキースよりは弱い。ダモン道場は確実に先鋒戦で1勝を挙げる作戦で、より強いキースを先鋒に置いているようだ。
ただローカス道場はまた別の意味で今のところはクスイーよりも強いマコトを先鋒に置いている。そのマコトが負けたのだ、相手の強さが判るというものだ。
相手の次鋒ウルはキースよりも下、ということだが今のクスイーよりは上、ということでもあった。クスイーの剣撃の速さは手に負えないがフェイントなどの狡猾さに欠けている。剣が真っ直ぐで剣筋が読まれ易くなってしまうのだ。剣速が超一流であっても読まれてしまえば躱すことも受けることも一流であれば可能になる。ウルは一流の範疇に十分入っていた。
クスイーの打ち込みが少しだけ大降りになってしまったのをウルは見逃さない。ウルはクスイーの剣を上から叩いて落としてしまった。
「そこまで、ウル=ロマネスの勝ち」
相手にとっては予定通りであり、一般的な見方でも順当にダモン道場が2連勝した。あと1勝で今年も本選出場が決まる。もう十年以上予選では負けたことが無いのだ。
「ごめんなさい。また負けてしまって」
クスイーは前回女剣士に負けた時とは違い、普通に剣で負けたことにショックを隠せない。そもそも試合に勝ったことが無かったのだがロックたちと出会ってからは強くなった気がしていたのだ。
「僕はやっばり強くなれませんでした」
「いや、クスイーは強いよ。あとは経験だけだって。ランドルフ道場に勝つんだろ?本選が始まるまでには少し時間があるから、今度は俺が稽古を付けてやるよ」
2連敗して後がない状況でロックは本選出場か既成事実の様に話す。クスイーが見るとアクシズもルークも談笑している。誰も焦ってなどいないし、ローカス道場の勝利を疑っていないのだ。
「中堅戦ダモン道場ムルトワ=ロンド対ローカス道場アクシズ=バレンタイン、始め」
アクシズは相手の剣を見極めるため数回打ち合う。それで相手の力量を図るのだ。
「おいおい、本当に強いぞ、流石去年の4位だ」
言葉とは違いアクシズに焦りはない。
「アクシズ、負けたら承知しないからな」
ロックが脅す。ロックの出番がないまま負けたのでは何をしにマゼランまで来て剣士祭に出場したのか判らない。
「当り前だろう、我々は今年こそ優勝するのだ。予選で負ける訳にはいかない」
相手の気合も十分だ。中堅の自分で三勝して本選出場を決めたい。残りの二人からは『予選に出るつもりはないからな』と言われている。
どうしても自分で決める、その気負いが少し剣を鈍らせる。それをアクシズは見逃さない。勝てる時に勝つ、というのがアクシズの信条だ。
アクシズの剣を受けきれなかったムルトワは尻餅を付いてしまった。
「そこまで。アクシズ=バレンタインの勝ち」
ダモン道場としては初めての敗北だった。
「ルーク、気を抜かない方がいい。本当に強いぞ」
簡単に勝っておいてアクシズが言う。相手からすると馬鹿にされたとしか思えない。師範で道場主の息子であるローデ=ダモンば苦虫を噛み潰したような顔でムルトワを睨んでいる。
「ガルム、まさか俺を予選に出させるつもりじゃないだろうな」
大将であるローデが副将であるガルム=ダレンを威嚇している。ガルムは野獣のような風貌でルークと比べると二回りは大きい巨体の持ち主だった。
「お任せください。一蹴してみせます。お手を煩わせるようなことはいたしません」
ガルムはローデに向かって深々と頭を垂れた後、ルークの方に振り向き、それだけで殺しそうな視線を送ってくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます