第176話 剣士祭Ⅱ②

「では次鋒戦ゲイル道場サクーム=シュート対ローカス道場クスイー=ローカス、始め」


 クスイーは相手がごつごつとした男だったのでとりあえずは安心した。それに相手が強い。クスイーは相手の剛剣を受けるので精一杯だった。


 ゲイル道場の出場者たちは先鋒のノクス=ビスクを除いて力で相手を圧倒する剛剣を得意としていた。中堅のグランデル=ゲイルと大将のワーレン=ドメルは剣士と言うより格闘士の様にしか見えない。


「これは受けるのが大変です、どうしましょう」


 クスイーがアクシズに助けを求めるが、応援以外の過度の助言は反則になってしまうので応えられない。


「いつものようにやればいい、頑張れ」


 クスイーとマコトはアクシズの弟子の様になっている。ロックやルークが稽古を付けないので二人の修行はアクシズ任せだったのだ。


「判りました、やってみます」


 クスイーはサクームの剛剣を受けると同時に相手に打ち込む。相手に反撃をさせない速さだが辛うじて避けられた。ただ反撃が出来る隙が無い。


 クスイーの剣は速さは超一流だが重さが足りない。それはマコトも同じだが体重が軽すぎるのだ。全体重を掛けて打ち込んでも受けられてしまうと相手にはダメージを与えられない。逆にこちらの腕が痺れたりしてししまうのだ。軽量級の二人の共通の弱点だった。


 しかし体格のいいアクシズは別としてロックやルークは二人とそれほど体格に差がない。ロックたちは、ただ速いだけではなく有効な打ち込み角度やタイミングで相手を圧倒してしまうのだ。クスイーとマコトはまだその域には達していなかった。


 軽いとはいえクスイーの剣速に相手はついて行けない。剣で受けている間はほとんどダメージは受けないが、徐々に受けきれなくなってくる。サクーム=シュートも基礎がしっかりしていて普通に強いのだがクスイーの剣速は異常に速い。


 とうとうサクームが受けきれなくなって決着はついた。


「そこまで、クスイー=ローカスの勝ち」


 前の試合で負けてしまったクスイーは安堵の表情を浮かべる。事前に聞いていた訳ではなかったが全勝を目指していたルークには悪いことをしたと思っていたからだ。


 クスイーもルークが本気で怒っているとは思っていなかったが、やはり一敗したことに責任を多少なりとも感じていた。


 ロックは自分が強い剣士と試合いたいだけで道場としての勝ち負けに興味がありそうには見えなかった。ただ今のところ出番がないので暇を持て余しているようだ。マコトやクスイーが頑張れば頑張るほどロックの出番は無くなってしまう。それはそれで申し訳なく思ってしまうクスイーだった。


「これでアクシズが勝ったらまた俺の出番はないよな」


「それは仕方ないって自分で言ってなかった?」


「そうなんだが、まあ、やることが無いのは辛いな」


 ロックは本当に暇そうだった。


「中堅戦ゲイル道場グランデル=ゲイル対ローカス道場アクシズ=バレンタイン、始め」


 中堅戦が始まった。グランデルについては道場を訪れた際に見ているのでロックは試合を見てさえいない。アクシズの手に負えない相手ではないと確信しているのだ。


 少し離れた場所で同時に行われている聖都騎士団所属ダモン道場とグロシア州騎士団所属アンテノン道場の試合を見ている。向こうも三人で終わりそうだ。


「そこまで、アクシズ=バレンタインの勝ち」


 勝者を告げられロックが慌てて振り向く。


「なんだ、もう終わったのか」


「おいロック、今見てなかったろ?」


「悪い悪い。向こうの試合をちょっと見ていた。次に当たる相手だからな」


 ただのいい訳なのはアクシズも判っていた。グランデルの試合を見たいとは思わなかった、ということだ。ゲイル道場の副将マルス=マルクスと大将ワーレン=ドメルは出番がなかったがロックが試合いたいとは思わない、と言う意味ではグランデルと一緒だった。


 あと一試合。勝ち残ったダモン道場に勝てば本選に出場できる。ロックの楽しみはその先に在るのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る